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次の日。
1度目のログインでお薬を作り販売をした。
久しぶりに大量発注がきたりと懐が少し温かくなりホクホクしながら1回目を終える。
が、やはり屋台を開いて帰るまで、また視線を感じたような気がして落ち着かなかった。悪意ある感じはない気もするけど、姿が見えないのは気になる。
後でヤトとクオに相談してみようかな。
2回目のログイン。
「よ!」
「おつ」
「また一番最後だったー!ごめんね」
「きゅ~……」
寝起きのまっちゃを抱えて転移陣にのると、すでにログインしていた2人が目に入った。
「大丈夫だって!あ、でもそろそろ時間だな」
「外出る」
「うん、行こう!」
外に出ると明るかったはずの空が段々と暗くなり夜があけたばかりというのに、また暗くなってしまった。
イベントが丁度始まったようだ。
『ふっふっふ。とうとうやったぞ!クリスマスなんて何が楽しいんだ。この世界からクリスマスを奪ってプレゼントは全部俺様のものだ!』
空には黒い服の悪そうな顔したサンタと、縄でグルグル巻きにされたスタンダードな赤いサンタクロースが映しだされた。
『さあ、いけ!ミニ黒サンタたち!俺様のプレゼントを奪ってくるのだ!』
『『『キュッキュ!』』』
その瞬間空から黒いボールみたいなものが空いっぱい、いや、この世界中にばら撒かれた。黒いボール、よく見ると悪そうな黒服サンタをデフォルメしてちっさくしたミニ黒サンタと呼ばれていたもの、が降ってきた。
その直後にドンっという地響きが。
映像は切り替わり地面から天へ向け塔が生えた。そしてそのてっぺんの広場にミニ黒サンタが巨大化したようなサンタが降り立った。
中ボス的なヤツ?
それを眺めていると目の前にウィンドウが開かれた。
『サンタを救え!
君たちのプレゼントを用意している時、サンタクロースがブラックサンタに捕まってしまった。皆で協力してミニ黒サンタを退治し、塔を攻略してクリスマスまでにサンタを助けだそう!』
詳しくは公式ホームページへって。
「今回はまたいつもと違った感じだな」
「ミニ黒、経験値美味しい」
「……本当だ」
既に公式ページを確認している2人に続きホームページを開く。
そこには今回の詳細が書かれていた。
ミニ黒サンタを倒すといつもの1.5倍の経験値が貰えるらしい。更にミニ黒サンタからドロップするアイテムで生産することによってこちらの経験値はいつもの2倍も入るらしい。但し時間短縮したものは通常と同じ、いや、それ以下の経験値しか入らない。
ミニ黒サンタからドロップするアイテムは様々だが、そこから作れる物は1スキルにつき1つまで、という事らしい。アイテムを手にして相応のスキルを持っていればレシピは自動取得となる。ドロップ品の売買は自由だが取引金額は決まっていて高くも低くも出来ない。更にギルドで同額で売買されるらしいが、そちらの販売状況はプレイヤーがギルドに売ったアイテムによって左右されるという。
塔だが、この塔は合計3つあり、白、緑、赤と色分けされていた。そしてその最上階に降り立った黒サンタがイベント当日に開く、ブラックサンタがいる場所へ繋がる扉の鍵を持っているらしい。鍵を手に入れるとイベント当日参加が出来るようだ。塔にはレベル制限があり、白の塔は1~50、緑の塔は高位種族1~30、そして赤の塔は高位種族31以上、ということらしい。
うーん、ギリギリ緑の塔か。
あ、でもヤトとクオは31を超えてるから赤の塔しか行けないのか。
「ハナ!行くぞ!」
「一緒」
がしっと両方から腕を捕まれ逃げられる状態ではない。
「え?」
「「レベル上げ」」
「ええー!?」
はい、やって来ました迷いの森。
フィールドはどこもかしこも人で溢れかえり、ミニ黒サンタの取り合いがおきていた。
ミニ黒サンタはそのフィールドにあったレベルで出てくるらしい。ちょっとズルいかもしれないけど、迷いの森はまだ人がいないので効率が良かったのだ。
そして魔法陣を発動し迷わずの陣を展開する。2人とも魔道具を持っているので迷うことはないが、効果範囲は装着者のみらしく、同パーティーにもかかわらず私とまっちゃには効果が及ばない。なので魔法陣を使うことにしたのだ。
「よーし!狩りまくるぞ……と、またその光か」
ヤトは私とクオを交互に見て首をかしげる。
「やっぱその光2人にしか現れないんだな」
「うーん。しかも……うん、やっぱりクオの方が光が多いね」
「5。ハナは……2?」
迷いの森を暫く歩くと私とクオの周りに光の珠が現れた。そしてふよふよと私達の周りを漂う。クオが言うように私は2つ。クオは5つだ。
この前レベル上げに来た時から気にはなっていたのだけど、時間が無いのもあって結局放置したんだよね。
「気にはなるけど、特に何かあるわけじゃないんだよね」
この光の珠の数の違いは気になるが、何か訴えてくるわけでもなく、結局はわからずじまい。
「ま、とりまレベル上げだな!」
「行こ」
「え?やっぱり放置?」
そしてミニ黒サンタを探すべく、奥へ奥へと進んでいく。
1ヶ所光の珠達が軽快にくるくる回り出すところがあったが、特に変わった場所でもなく、少し調べてもわかるわけもなく、やっぱり放置。
時間出来たらまた来ようってことで、とりあえず今はレベル上げ、とのこと。
先にヤトとクオが1ずつあがり、日付が変わった頃やっと私のレベルも上がった。
あー……今回のログイン中に上がって良かった。レベル上げの狩りは気分的に辛いのです。
その後はクランホームへ戻り、明日からは塔攻略をするという事なので、また21時という約束をして別れた。
ふふふ、ま、その前に私は生産系のレベルを上げるけどね。明日は金曜で宿題なんかは放置しても土日があるし!
これを見たらやるしかないでしょう。
釣りを。
そう、ミニ黒サンタからドロップしたのは釣りに使う餌でした。こんなものまでドロップするのか、と思ったが釣りも生産スキルだし有りなのかも。
いや、かなり有りだ。
船を作る目処は立ったけど、釣りのレベルを上げないと主には会えないもんね。
この期間は釣りと船に関わるスキルのレベル上げをしよう。クリスマスイベントが終わったら親方のところへ行くことにしよう。
では今日はここまで。
あ、2人に屋台の時の視線のこと相談するの忘れた。でもイベント始まるし、もうちょっと様子見てからでいいかな。
次の日。
1回目のログインです。
早速ギルドへ行き釣り餌を買う。
ギルドでの買い取りには個数制限があるようなのだが、売れ筋アイテムは特に制限が厳しい。
ま、釣り餌に関しては買う人もそんなに多くないので1人1日100個までという制限。
1個100ギルだから10000ギル。勿論即買いですよ。
目標は1日100回釣ることになりそうです。
というわけでシアのオアシスでひたすら釣りです。途中モンスターを釣り上げる事もあったが、私もまっちゃもレベルが上がっているおかげで問題なく倒すことができた。
新しいアーツを覚えたり、そのお陰もあってか1時間くらいで100匹釣り終わった。
が、そこで問題が。
レベルが上がってきたからか、今までより格上の魚やモンスターが釣れるようになってきた。すると道具の方がついてこなかったようで魚が食いつきはするけど釣り上げられない、という事態が起こったのです。
それにより餌が無駄に消費されることに……。
どうしようかな。
またボフ爺さんと勝負すれば手に入るのかな?でも今日は金曜で月曜までは待たなくてはいけない。
あとは……知ってそうなのはシローさんくらいだな。
さっきまで夜釣りをしていて、今は夜が明けたばかり。
よし、シローさんに会いに行こう。
うん、夜ご飯ギリギリまで粘ってみましょう。
「おはようございます。シローさんいますか?」
トントン、と扉を叩きながら暫し待つ。
ガラリ
「なんだ、ハナか。ルアー出来なかったか?」
「あ、レシピは完璧で黄魚も無事釣ることが出来ました!実は、釣りのレベルが上がったからか、今使ってる道具じゃレベルが高いものは釣れなくなってきてしまって……。釣り道具の作り方とかご存じないかと思って伺いました」
「なるほど、次は青魚なら道具は必要か……。ま、こんなところじゃなんだ、入ってくれ」
「お邪魔します」
おうちにお邪魔して囲炉裏を囲む。
シローさんに勧められるまま座ると、お茶を出してくれた。
「今度は青魚か。とするとあれがいるな。よし、ならハナにはサンダーフィッシュを釣ってきてもらいたい。そいつからとれる雷の髭というものを持ってきてくれたらリールはつくってやる。あとはルアーだが、空の王ルバイヤートから取れる王の被膜を持ってきてくれ。そうしたらルアーのレシピも渡そう。どうだ?」
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クエスト
『素材集めのお手伝い』
クエストを受けました
報酬:リール、ルアーレシピ
クエスト出現条件:〈釣り〉ランクアップ、〈道具〉ランクアップ、兄弟の何れかと面識がある事
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「わかりました!また来ます」
それぞれの出現ポイントを確認してからシローさんの家をあとにする。
よし、じゃまだ時間あるしサンダーフィッシュ釣りだな。
先ずはシアの街に転移して、街を出るまでは歩いてそれからまっちゃに乗る。
「まっちゃ、よろしくね」
「キェー!」
「サンダーフィッシュは……あそに見える山の頂上、かな?」
マップをメニューから開き、シローさんから教えて貰ったポイントに向かう。
「キェー!」
まっちゃはバサリと翼を広げ空を駆ける。
「きもいちいぃー!」
ぐんぐんスピードが上がり、暫くすると砂漠が終わり荒野地帯へと突入、程なくして目指していた山の8合目までやってきた。それ以上は高度があげられないので、そこからは走っていくことに。まっちゃが。
勿論私は乗ったまま。まっちゃ、本当にありがとう。
出てくるモンスターは私でも十分対処できるくらいのレベルだったのでサクサク進んだ。
着いたのは小さな泉があるだけの山頂だった。
小さいとはいっても直径5mくらいはあるかな?かなり澄んでいるけど底が深すぎるのかどこまで続いているのか予想がつかない。
サンダーフィッシュは雑食で何でも食いつくらしいので、イベントアイテムの餌で釣りをする。
釣れるかなー……お、きた!
「け、結構、重い、ん、だけ、どー!……んーよいっしょ!」
ざっぱーん!
「キェ!?」
ひなたぼっこしていたまっちゃも慌てて立ち上がる。
「おおー!?」
釣れたのは巨大なナマズ、ことサンダーフィッシュさん。
どうやら戦闘になるようですよ。
Doooooooooojo!!!
え?ドジョウなの?
「まっちゃ、いくよ!」
「キェー!」
まっちゃが飛び上がって風魔法をぶつける。
あ、結構効いてる。
その隙に斬りつける。
「なっ!?」
ぬるん、ぬるんと刀が滑りほとんどダメージが入らない。
それよりも……。
「きもちわるいー!」
手触り、というか斬った感触がぬるぬるして最悪だった。
「まっちゃ、風魔法で戦って!接近戦禁止!」
「キェー!」
「ファイヤーボム!」
うーん、まあまあ効いてるかな?
ここは出し惜しみせずに特化魔法陣だ!
……今度補充しておこう。
Joooooooooooooooo!
終わったー。
レベルはそこまで高くなかったようなので比較的早く風魔法のゴリ押しで勝てた。攻撃パターンは多少変わっていったが、最終的にはまっちゃに乗って、飛びながら近づいて魔法ぶつけて離れてを繰り返した。物理攻撃はほとんど効かず、魔法攻撃なら属性関係なく効くようだった。
「お疲れ様、まっちゃ。うーん、まだ時間あるからルバイヤート行ってみる?」
「キェー!」
「じゃ、お願いね。えっと……方向はこっちかな?」
ということでやってきました。
今度はまたシアへ戻って、そこから北へと向かったとあるオアシスだ。
ここに現れるルバイヤートを倒せばいいらしいんだけど……。
「あんないっぱいは無理だよね……」
空にはプテラノドンのようなモンスターが旋回している。10体くらい。
「1体でいいんだけどな」
「きゅ?」
現在まっちゃを小さくして物陰から敵を観察中。
1体ならなんとかなるかもしれないけど、さすがに全部を相手してられない。
そこから早1時間。
出るに出れなくなってサンドイッチを食べながら観察を続けた。幸い、この辺りはルバイヤートの縄張りになっているのか、他のモンスターはいなかったのでゆっくり食事ができたのだ。
そして観察してわかったこと。
定期的に1体だけ群れを外れてどこかへ飛んでいくのだ。
やっぱりこれを狙うしかないよね。
「まっちゃ、次1体だけ飛び立ったらそれ狙おう!」
「きゅっ!」
そしてじっと息を潜めて待つこと数分。
「きた!」
「キェー!」
1体が別行動で飛び立ったと同時にまっちゃが大きくなり、即座に乗り空へと駆ける。ルバイヤートは飛ぶスピードが速くまっちゃも必死で追う。
Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!
「え?」
追いかけるルバイヤートがこちらに気づくと甲高い鳴き声をあげる。
Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!
それに答えるように背後から複数の鳴き声。
「まじで?」
振り向くと旋回していたルバイヤート達がこちらへ向かって飛んできた。
「まっちゃ!逃げて!」
「キ、キェー!」
獲物と定めたルバイヤートを抜き去り、まっちゃが今までにないくらい早いスピードで飛んでいく。
「ファイヤーメテオ!」
後ろを振り向き魔導陣Lv.50で覚えたメテオ系の魔方陣を放つ。
すると放った手の先でファイヤーボムを小規模にしたような玉がいくつもルバイヤートの群れに降りそそぐ。
「まっちゃ、今だよ!頑張れー!」
「キェー!」
「た、助かった……」
「きゅぅ……」
飛んで飛んでやっと逃れた。
とはいっても視界を妨げるもののない砂漠なので、ここからでも先ほどのオアシスはまだ見える。どうやらルバイヤート達のテリトリーがあり、そこから抜けてしまえば追ってこないようだった。
何故かというと、ある場所を境にして急に追ってこなくなったのだ。
巣の近くで追うのは危険だとわかったので、次は1体だけテリトリーの外へ出してしまおう。
とはいえもう時間がないので今回はログアウトの時間なのだけど。
ルバイヤートとの再戦は明日かな。
「帰ろっか?」
「きゅ」
疲れたまっちゃを抱っこして転移でホームへ戻る。
今回はここまで。