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次の日。
今日はクオのお店の開店日。
約束は20時半にクランホーム集合の予定。
現在1回目のログイン。
畑のお世話を水魔法で遊びながら皆で行っていたところ急にコールが。
「ルルさん?……はい」
『あ、ハナちゃんお久ー!今大丈夫?』
「はい、大丈夫ですよ」
『よかったー。実はハナちゃんに折り入って頼みがあってさ。報酬は弾むから私の実験手伝ってくれないかな?』
「実験?」
『そう!この前のハナちゃんから依頼あった装備の素材、ハナちゃんが自分で作ったって言ってたでしょ?それから私も試行錯誤してみたんだけど、やっぱり錬金術無しにはある程度のものしか出来なくてさ。だから時間あるときに合成をお願いしたかったんだ』
そう言えば前の時ルルさんに合成で新しい糸作った話したな。
「いいですよー。というか合成だけなら今からでも大丈夫ですよ?」
『本当に!?』
「はい。リアルの18時くらいにはログアウトするのでそれまでだったら、ですけど」
『十分すぎる!ありがとうー!じゃ、どうしようか!?どこ行けばいい!?』
おおー、ルルさんテンションマックス!
「合成だとこちらでやったほうが都合が良いので、私のホームでいいですか?」
『ホーム!?行っていいの!?』
「勿論ですよ」
『やったー!実はニーナが羨ましかったんだよね!私は今ウォルターニアの自分たちの店なんだけど、どこにいればいいかな?』
「じゃぁ、ウォルターニアの転移台まで行くので、そこで待ち合わせしましょう」
『了解!5分以内には転移台に行くから!』
「え?そんなに近く無かったですよね……?」
『大丈夫!もう向かってるから!じゃ、また転移台で!』
そしてコールが切れた。
いや、それは誤差の範囲ではないでしょうか?
とりあえず私も向かっておこう。
まっちゃはまだ遊んでいたそうなので、ミーアとキララに任せウォルターニアへ向かう。
転移台があるのはちょっとした広場になっていて、至るところにベンチが置かれている。あいているところを探して座ろうとすると、後ろから凄い勢いで何かがぶつかってきた。
「おまたせー!」
ルルさんだった。
「え!?いくら何でも早すぎないですか!?」
「屋根の上跳んで走ってきたからね!あー、疲れた!」
あ、なるほど。それなら一直線にここまでこれる……って、違うから。そんな事普通しないし出来ないから!
「意外と出来ちゃうもんなんだよ?」
思い切り顔に出ていたようで、ルルさんは心の声に答えてくれた。
あれ?生産職、でしたよね?
やっぱりトップクランは違うのか……。
「そんな事はいいから早く行こう!」
「あ、そうですね。では……」
ルルさんを伴いホームへ転移台でやってきた。
「おおー!話には聞いてたけど本当凄いね!」
「ありがとうございます。あ、合成は地下なんでこっちです」
「おっじゃまっしまーす!」
ルルさんを工房まで連れてきて合成布が置いてあるテーブルまで先導してゆく。
まっちゃ達はまだ外で遊んでいるのかリビングには居なかった。
「ここで合成します」
「へー……。あ、これって専用の道具?ふむふむ、話の通りだ。どう使うの?」
「えーと……」
簡単に合成のやり方とMPの事、個数の事を説明する。
「ハナちゃん10個ノーミスで合成できるの!?」
「え?はい、と言っても昨日やっと出来るようになったんですけどね」
「まじか……いやー、流石だね。ハナちゃんにお願いして良かった!プレイヤーではまだそこまで出来る人は居ないからね。掲示板なんかで公開されてるのは4つまでみたいだからさ。合成の組み合わせ秘匿する人ばっかだから、なかなか進まないらしいよ」
そうなんだ。知らなかった。
「一応シアの錬金術屋で合成依頼も受けてくれるから考えたんだけど、あそこ成功率が極端に低いんだよね」
「そんなとこ有るんですか」
全く知らなかった。
「プレイヤーの錬金術スキル持ってる人でもそういう商売やってたりするらしいけどね。でも合成できる数が少なくて2個とか3個のばっかりだけどね」
「うーん……私もそれで商売すればお金稼げるかな」
これはもしかして良いお金儲けの手段ではないのだろうか?素材は持ち込みでMP消費だけで稼げる……上手くいけばね。
「なになに?ハナちゃんもしや金欠?」
「そうなんです。いまお金が無くて色々手詰まりで」
「なるほどねー。ま、需要はそれほど高くは無さそうだけど、私は是非ともやって欲しいな!そしたら助かるし、絶対ハナちゃんにお願いするから!」
「因みに合成っていくらなんですか?」
「2個の合成で100ギル、3個で400ギル、4個で900ギル、ってとこかな?あ、これはプレイヤーの場合ね。100%成功でこの値段。NPCだともっと安いよ。2個、100ギル、3個で200ギル、4個で300ギルって感じで増えていって、最後10個だけが1000ギルって感じ」
おおー、プレイヤーぼったくりだよ。
プレイヤー4個とNPC10個の合成がほぼ同じ値段って。
「まぁ、高く感じるけど、全絶対成功するからね。NPCに何回も頼むくらいならプレイヤーで1回成功させたほうが安いんだよ」
「そうなんですね……。もし10個絶対成功出来た場合いくらになると思います?」
「そうだねー……。NPCの合成って、合成個数が増える度に成功率の分母が増えていくんだよね。まぁ、検証はまだ完全じゃないけど、ほぼほぼあってると思われてるの。2個の合成なら1/2で成功、3個なら1/3で成功って具合ね。で、プレイヤー側の値段ってそこからつけられていて、最大まで合成した場合より1回分安いって基準らしいの。2個なら成功率は1/2、つまり2回に1回は成功する。最大でかかる費用は200ギル、そこから1回分差し引くと100ギルって感じね」
「皆さん色々考えてるんですね……」
いや、マジで凄いです。
「その基準でいくと10個の合成の場合、成功率は1/10だから、プレイヤー側の料金は9000ギルってとこかしら?」
「おおー!」
パチパチと思わず手を叩いて感心してしまう。
基準があると値付けも楽だな!
「ま、成功率の検証は進んでないから最後まで同じ法則かはわからないけどね。それなら皆納得するんじゃないかしら?」
「参考になります」
「合成お願いしたくて調べたからねー。あ!そうだ報酬の話!」
「そうですね。じゃ、その基準でお金頂けばいいんですかね?」
「プラスMP回復代も払うよ!」
「いや!私も勉強になったしそこまではいいですよ!それに全部成功するってわけじゃないだろうし……」
「それはこちらは納得済みで依頼するから良いのよ」
「そうですか?でも新たな組み合わせも分かるかもしれないし、私もメモらせて貰っていいならそれはいりません」
「……わかった!じゃ、それでお願い!またハナちゃんに合う装備作るから楽しみにしといて!」
「ありがとうございます」
「じゃ、始めよっか?まずは……」
それからは怒涛の合成ラッシュだった。
合成して、メモして、MPがなくなったらお薬を飲んで、また合成をして。
途中ご飯を挟んで計6時間も合成を続けた。
結果成功したのは1/3くらいだったけど、組み合わせからいえば、かなりの数になった。
なんと10個の組み合わせも1パターンではあるが見つけてしまった程だ。
金額としては35万2千ギル。
100パターン以上を試しはしたが、それでこの値段。山へとまた1歩近づきました。
その後はリビングでお茶しておしゃべりしてルルさんは満足げに帰って行った。
今度はミーアとキララの服を作ってくると息巻いていた。
それはちょっと楽しみ。
そして2回目のログイン。
クオのお店を手伝うのでまっちゃを連れてクランホームに向かう為転移陣にのる。
そして視界が一瞬ブラックアウトした後、いつものクランホームへと到着した。
が、視界が開けた目の前には何故かクオとヤト。
「え?」
1時間後。
「「「いらっしゃいませー」」」
「きゅ~!」
先ほどクランホームに転移したら目の前に黒猫メイドが2人いた。
2人だ。
クオはわかる。獣族でもともと黒猫だ。
だけどヤトはドワーフ。耳は無かったはず。ご丁寧にふらふら動く尻尾も付いている。
首にはリンと鳴る鈴が付いた黒い首輪のようなチョーカー、そしてミニスカートにニーハイといった組み合わせ。
「確保!」
ヤトの掛け声でクオがぎゅっと抱き付いてきた。
そして直後にヤトが見えるように広げたもの。
「制服。着て?」
いや、これはちょっと……。
か、可愛くこてんって首かしげてもダメなんだからね!
じー。
下からウルウルした目で見上げてくるクオ。
……だ、ダメなんだから。
「……ダメ?」
……だ、ダメ……。
ニヤニヤ。
ちょっとヤト?
何楽しそうになに眺めてるの?
「……着て、ほしい、な」
……うっ。
そんな不毛な攻防があり、結果私はしっかり黒猫メイド。最初からクオに勝てるとは思ってなかったけど、ヤトのニヤニヤが目につくとどうも反抗してしまった。反省。
そして現在ついに開店!
お店はリアル時間21時からって前もって宣伝していたらしく、外には長蛇の列が出来ていた。
ナニコレ。
クオのお店は基本持ち帰り。
イートインスペースもあるけどセルフでやってもらう仕組みらしい。
店舗スペースは空間拡張しているらしく、外から見るよりかなり広くなっている。
入口入ると2つのカウンターが並んでおり、その奥はオープンキッチンとなっている。
1つめのカウンターには商品のサンプルが飾ってあり、様々な料理が並んでいる。
もう1つは食材売りのカウンター。クオの畑や農場の直売所だね。カウンターには様々な食材という素材が並んでいた。
なんと魚まである。
そういや生簀も設置したって言ってたっけ。
お店はNPCを雇って回す予定らしく、今日はコリンちゃんとナナちゃんという女の子がカウンターに立っていた。勿論お揃い猫耳メイドさん。
クオはカウンターの中でせっせと商品を作っている。
私とヤトの役回りは人の誘導。もし人が少ないようなら宣伝もする予定だったけど、必要なさそうだな。
ま、この格好で街の中練り歩かなくてすんだので良かったのだけど。
ヤトは調理済みカウンター、私は食材カウンターを担当。食材の方は1人10個までと伝えてからカウンターへと誘導する。
中にはNPCの人まで並んでいてクオの人気ってそこまで広がっているのかと驚愕した。育てるとこから解体までを全部クオのところでやっているのでアイテムrankが高く、そこまで出来る人はまだ少ないらしい。その中でもクオはトップクラスらしく、NPCからの信頼も厚いとか。
その後はちょっと困ったプレイヤーもいたが、周りのプレイヤーがどうにかしてくれたらしく、大きなトラブルもなく開店は大成功を収めた。ヒメや他の知り合いにも声をかけていたから皆来てくれて、有名人もいたからか店は更に繁盛した。
今日はオープン日なので例外だが、基本的にはゲーム内時間の5時~10時にお店を開けるらしい。接客は基本NPCの店員さん。クオがいない場合もあるが、その時は品物が無くなった時点で店を閉めるらしい。今後を見てそこら辺は調整するらしいけどね。
軌道に乗るまでは色々あるだろうからクオも出来るだけお店にいるとは言ってた。
「かんぱーい!」
今はクランホームの方で打ち上げ中。
コリンちゃんとナナちゃんは帰っちゃったけど、帰りにおみやげを持たせたらしい。
「いやー、あの混みっぷりには驚いたな!さすがクオ!」
「本当だよ。クオ凄い人気だったね」
「……ありがと」
恥ずかしいのか俯いて照れている。
うん、可愛い。
「お店、頑張る」
「おう!手伝い必要ならいつでも呼べよ!」
「うん、私も手伝うからね!」
「ありがと」
そしてそれからはガールズトーク。
今日のあの客が、とか、コリンちゃんとナナちゃん可愛いとか、クオのケーキはアップルパイが一番、いや絶対スフレだ、とかとか。
何でもない話を楽しむ。
「あー、でもやっぱりお店って良いね。私もやっぱりお店開こうかな」
「そうだなー。あの店放置するのも勿体無いよな」
「屋台、面倒」
「そうなんだよね」
屋台はNPCを店員にして販売、ということは出来ない。なので自分で全部セットして売らなければいけないのだ。毎回足を運ぶのも場所を確保するのも実は結構大変なんです。場所確保は特に大変。ログアウトするときは屋台なんかは仕舞わないといけないので入れ替わりも激しいんだけど、やはりいい場所はなかなかとれない。
「うん、やっぱりお店開こうかな。今一番の目標はお金稼ぎなんだよね。このままじゃ船も作れないし山も買えないし」
「山!?」
「がんば」
うん、なんかやる気出てきた。
親方のとこにいってクエスト消化しつつお金稼ぎが当面の活動内容になりそうだな。
「あ、そういえば公式ページ見たか?」
「あぁ、明日からイベントが始まるんだったっけ?」
「クリスマスイベント」
そういえば学校で茉莉と拓哉が教えてくれた。イベントは毎月最終日というペースだったが、今月はクリスマスという世のイベントに合わせて行うらしい。
「明日21時からだからまた一緒に参加しよーぜ!」
「おけ」
「そうだね!じゃ、またここ集合?」
「だな!」
「わかった」
「あ、イベントと言えば……」
そしてまたとりとめない話しへ話題は移り夜は更けていくのだった。