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「あー!まっちゃ右、右からくる!げ、今度は左ー!よし、ファイヤーボム!」
聞こえることはないとわかっていても叫んでしまう。
そして試して分かったことだが、光を遮らなければ魔法陣を打つことも可能であった。ただしブラックドロップを持つ左手より低い位置からでないといけないので自由に、とはいかないがないよりはいい。
と、この間も背後から攻撃を受けHPは減るので魔法陣を打ち込んだらすかさず薬を飲む。次の攻撃はこなかったのでヒメがどうにかしてくれたらしい。
あと10秒。
攻撃が激しくなってきて私のHPがガリガリ削られる。
回復するのが早いか、HPが尽きるのが早いか。
3
2
1
「できたー!」
「ハナ!しゃがんで!」
「きゃ!」
頭上からぶおんという音がし、頭の上を何かが通った気配がする。
あ、あぶなー。
アイテムをしまい私も戦闘に加わる。
ぱっと振り向くとまだ8体くらいいた。この数をいなしているなんてヒメ流石です。
そして戦闘に加わったところギリギリだったのかヒメが攻撃を受けて死亡。
すかさずリバースポーションを使ったからよかったけど、その隙に私も死にそうになったよ。まっちゃが回復してくれたけど、そのまっちゃもギリギリのHP。
でもその前にヒメを回復しないとまた死んじゃう。ということでリバースポーションに続きトップポーションを投げつける。
そんなギリギリの戦闘が続き、ついに最後の1体が倒れた。
「お、終わった」
「ふぅ……そのようね」
「キ、キェー……」
座り込みたいのを我慢してまずは回復する。
全員の回復が終わって一安心。ただ、またいつモンスターに襲われるかわからないので急いで移動。さっき見つけておいたセーフティーエリアへと転がり込んだ。
最後の5個目は光をあてる時間が5分間だった。
しかも2度失敗して今回3回目だったんだよね。
いや、本当成功してよかった。
3人で受けるクエストじゃないな。
「これで木漏れ日の雫は手に入ったね。次は祠の玉?」
「そうね、夜になるまであと4時間ってとこだからそれまでには集めたいわね」
少し遅めの昼食のサンドイッチを食べながらこれからについて話す。
歩きながらクッキーとかつまんでたけど、ここらでガッツリ回復しておかないとね。
祠の玉が採取出来る場所は木漏れ日スポットを探しながら見当をつけていたのでさっくりと到着した。ヒメがサティア様からある程度の場所を聞いてくれていたので見つけやすかったし。
岩壁にぽっかりと空いた洞窟を進むと円形の部屋へとでる。中心に祠があり真上の天井がそこだけ穴が開いているらしくキラキラと光が射していた。
部屋の広さは半径10mくらいでそこそこの広さがある。
そして地面が見えないくらいぎっしりと丸い石が敷き詰められていた。
「ここから探すの?」
「そうみたいね。話に聞くと、ここにある石の中から祠の玉というものを探すらしいわ。それにこの広間ではモンスターがでないそうなの」
「なら結構すぐ集まるかな?」
そう思っていた私が馬鹿でした。
結局必要な数が揃ったのはそれから3時間後でした。
そこら辺にある石を手にとって鑑定をする、という事の繰り返しだけなのだけど、それが思った以上に大変だった。簡単な作業の繰り返しで最後の方は無言でひたすら石を手にとってたよ。
「暫く石は見たくない」とヒメがボヤいていた。ごもっとも。
しかしこの石集めで旨いこと時間が経過し、現在夜になったところ。月夜の灯は夜のみ採集出来るアイテムなので丁度良かった。
「あそこ光っているわね。ここかしら?」
「そうみたいだね。アイコンがピンポイントで出てるよ」
目の前には採集ポイントのアイコンが出ている。普段採集エリアに対してアイコンが出るのだけど、今回は1本の花に対して出ている。
真っ直ぐに伸びた茎の先にはホンワリと白い光を放つ薔薇に似た花が付いている。茎にトゲはないので薔薇では無いのだろうけど。
「この花だけを摘み取るらしいわ。あ、その時道具は使ってはいけないそうよ」
「なるほど……やってみていい?」
「ええ、どうぞ」
そっと花に手を掛け、手のひらと同じくらいの花を丁寧に茎から離す。
「ハナ!」
「え?」
ヒメの声に顔を上げると、びっくりして花を凝視するヒメの姿が目に入る。慌てて花を見てみると、花から灯の雫がごぼれ落ちていた。ぽたり、ぽたりと液体のように滴り落ちる雫が地面につくとぽんっと1度跳ねて空気中に溶けて消えた。
そして手の中の薔薇モドキはしゅんと萎れて灯りも消えたようになくなった。
「あー!?」
「……これはかなり慎重にしなくてはいけないようね」
「ご、ごめんね」
「いえ、試してみないと分からないことだから、次から気を付ければいいのよ。次行くわよ」
「うん!」
そして月夜の灯を探して夜の森をさ迷い、丁寧に花を摘み取っていった。
摘み取るのに少し時間がかかってしまうのでヒメとまっちゃには周囲の警戒をお願いした。特に採取するからといってモンスターが集まってくることはなかったんだけど、夜の方がモンスターが強いので何かあった時私じゃ対処できないからね。
それから3時間くらいで必要な数は揃った。探すのに時間がかかってしまったけど、何事もなく採取できてほっと一安心。
これでサティア様のところへ行けばクエスト完了だな。
近くのセーフティーエリアでご飯を食べたりしながらサティア様の家へと戻る。転移石は世間的には貴重品なので使わず歩いて帰った。なんとなくヒメは私がラピスだって気づいている気もするけど、まだそこまで話せる勇気は持てない。
ヒメはいい人なんだけどね、やっぱり人に言うのは抵抗あるというか。
ま、話さなきゃいけないってことはないからまだこのままで。
サティア様の家に着くころには夜も明け、現実ではそろそろ24時半くらいかな?25時になると強制ログアウトだからその前にはログアウトしたい。
「あら、おかえりなさい。どうだった?」
「はい、依頼の品全て集められました」
「すごいじゃない!助かるわ、最近立て込んでいて取りに行ってる暇がなかったのよ。……ええ、確かに全て受け取ったわ。ではハナちゃん手を出して」
「お願いします」
サティア様に手の甲を差し出すとサティア様はそこに手を当て呪文を唱える。
「グローイング」
ふわっと魔法陣が浮かび、問題なく手の甲へと吸い込まれていく。
「大丈夫そうね、それが迷わずの陣になるわ。魔法紙でも魔結晶でも使えるから沢山使ってちょうだい」
「ありがとうございます!」
これで迷いの森でも問題なく歩けるようになるな。
あとは……。
「じゃぁ次の依頼も伝えておくわね。次の依頼も千年魔樹の花弁というものを取ってきてほしいの。これを持つのは魔公樹というモンスターよ。とても強いからなかなか手に入れるのが難しいのよね。お願いできるかしら?」
千年魔樹の花弁?もしかしたら千年魔樹も見つかるかも。
「わかりました!」
「勿論ですわ。また詳しいことは依頼を行う日に改めて伺わせて頂くわ」
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クエスト
『サティアのおつかい2』
クエストを受けました
報酬:魔道具、紹介状
クエスト出現条件:称号:迷わずの陣取得
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報酬は魔道具に、紹介状?
ヒメも魔道具が使えるようになるってことなのだろうか?それに紹介状って、何だろう?
疑問だらけで本当はもうちょっと詳しく話を聞きたかったけど、ヒメに“時間”と囁かれ確認するともう5分も残っていなかったので、少々強引ではあったが2階に引き上げさせて貰った。
ヒメに明日の時間を確認して討伐だけなら昼間の方がいいってことになったので21時に待ち合わせの約束をする。
そして慌ただしくはあったがログアウト。
なかなか濃い時間だった。明日は戦闘メインだから先にお薬作って備えよう。
ではおやすみなさい。
次の日。
1回目のログインでホームへ帰り消費したお薬類を補充した。
時間短縮は使わずに今できる最高のお薬達を用意させて頂きました。
そして2回目のログイン。
扉を開け廊下に出ると丁度ヒメもログインしたところなのか鉢合わせ。
一緒にリビングに降りてサティア様から話を聞く。
魔公樹はサティア様の家から北東へ1時間くらいあるいたところにある巨大な樹らしい。そこでその魔公樹と戦って勝つことが出来れば千年魔樹の花弁が貰えるらしい。倒すのではなく勝負する、ということだ。なんでも魔公樹は千年以上も生きている魔樹で常に暇しているらしい。そこでその暇を潰すために戦う相手を探しているというのだ。そして勝負に勝てれば良く戦った証としてアイテムを貰えるらしい。
そうとわかれば善は急げということでさっそく出発した。
魔公樹は迷いの森の丁度中心にいるということで場所はそこまで遠くはなかった。
昨日歩き回って入れなかった場所があり、そこが目的地のようだったので迷うことなく到着した。
昨日は閉まっていた入り口の木の門は開いており、そこに入る前に準備を整える。お薬等でステータスを底上げしてから門を潜った。
門を潜り1本道を歩いていくと開けた場所に出た。
そして広場を挟んで対象の位置には太くどこまでも高く枝を伸ばす1本の大樹があった。
「すごい……」
「ええ、凄い威圧感ね」
『ほっほっほ、お主らもしや我に挑戦しにきたのかな?』
いきなり魔公樹が話しかけてきた。
驚きすぎてびくっと肩をゆらし答えられずにいると、代わりにヒメが答えてくれた。
「サティアさんから依頼を受けて千年魔樹の花弁が欲しいのだけど、頂けるのかしら?」
『ほっほっほ、肝の据わった娘よの。いいだろう。ならば我の暇を紛らわせるだけの実力を示してみよ!』
Gyuuuuuuuuuuuuuua!
そして戦闘が始まった。
すぐさまヒメは前へ出て魔公樹へと接近する。
まっちゃは宙へ舞い上がり大きく羽根を羽ばたかせた。
私は後ろから魔法陣で援護だ。
と思ったが次の瞬間刀を引き抜き防御するように顔の前に掲げる。
ギンッ!
魔公樹の根元から天に向かって10本の根っこが立ち上がり、こちらに向けて襲ってきた。はっと前を見ると、ヒメは1人で5本もの根っこに囲まれている。まっちゃは3本、私のところには2本きた。
いや、2本でもきついから!
「ファイヤーボム!」
魔法陣で一度距離をとろうと思ったが、爆炎の中から怯みもせずすぐさま根っこが飛び出し再び刀で防ぐ。もう1本もすぐに飛び出し向かってきた。
「いや、ちょ、無理!」
魔公樹のHPを見る余裕もなく攻撃する隙もない。
少しずつ自分のHPが削られているのは感じているが、回復する余裕もない。まだ決定的な攻撃は入っていないので凌いでいるが、そろそろそれも怪しい。
「キ、キェー……」
「まっちゃ!?」
私が2本でこんな状態なのだから、まっちゃは3本相手に満身創痍だ。
弱弱しい声に視線を向けると今まさに光の粒子となり消えるところだった。まっちゃがいたところがキラキラ光っている。あそこまで行ってお薬を使わないとまっちゃを生き返らせることは出来ない。しかも1分以内という時間制限つきだ。
「きゃっ!?」
い、痛い。
まっちゃに気を取られた隙に、根っこの攻撃をもろに受けてしまった。
HPは既に1/3をきった。慌ててお薬を出そうとして、視界のキラキラが消えるのを見てしまってまた視界が囚われる。
「いった!」
その隙を見逃すはずがなく、根っこに再度攻撃を受けてしまった。
そして目に入るのはHPバーの赤色がぐんぐんなくなり0になるところ。
あ、死んだ。