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次の日。
今日も予定があって夕方は予定通りログインできず、1回目20時からのログイン。いつもよりログインするのが若干早めなので、急いでお風呂に入ったり忙しかったがなんとか約束の時間までにログインできた。
ログインした場所はサティア様の家の一室。
そこから廊下へ出て下の階へと降りていく。
すでにヒメはログインしていたらしくサティア様と話をしていた。
「なるほど、わかりましたわ。……丁度ハナも来たようなのでさっそく出かけてきます」
「はい、いってらっしゃい」
「え?あ、いってきます」
何が何だかわからなかったが、ヒメに連れられそのまま家を出る。
「では、魔法陣をお願いしますわ」
「あ、そうだったね」
ヒメとは既にパーティーを組んでいるのでこのまま使えば効果はヒメにも及ぶ。
「《迷わずの陣》」
すると手の中の紙がふわっと宙に溶けるように消え、かわりに桃色の暖かい風が体中を巡る。ヒメもまっちゃもびっくりしたような顔をしているので同じような感じだろう。
さっきまでは鬱蒼と茂った森に1本道があっただけだったが、今は複数の道が目に映る。
よし、これで準備はいいかな。
ヒメもまっちゃもよさそう、柵の扉を開け森へと進む。
「まずはアマミーというモンスターを倒してブラックドロップというアイテムを10個集めなくてはね」
ヒメは私より早くにログイン出来たので今回の依頼の詳細をサティア様から聞いていたらしい。何も聞かずに出てきてしまったので、聞いてもらっていて安心です。
ヒメの話によると、月夜の灯を10個、木漏れ日の雫を5個、祠の玉が50個必要だという事。月夜の灯は夜しか手に入らなく、木漏れ日の雫は夜アイテムを集めて昼に木漏れ日を集めなくてはいけないらしい。祠の玉は採取場所が決まってるので昼夜問わずらしい。
今は丁度夜の時間帯になったばかりなのでまずは木漏れ日の風のアイテムを集めようといったことだ。依頼では5個だけど失敗することも考えて10個集めようということになった。
「アマミーは闇が濃い場所に多いんですって。だから奥に行きましょう」
「わかった。じゃ、行こうか」
月明りを頼りに薄暗い森を進む。
灯りがなくても進めるくらいには明るいが、遠くまでは見通せない。せいぜい半径2~3mといったところか。〈夜目〉とかそういうスキルがあるようだが今後の事を考えるとSPは無駄に出来ない。幸いヒメは所持していて戦闘が問題なく出来るようなので精一杯支援に回ろうと思う。
「いた!」
何回かモンスターと遭遇しながら進むと、今まで見たことないモンスターが現れた。黒いテルテル坊主のような見た目。ふよふよ浮かぶ姿はお化けのようだ。
鑑定で頭上にはしっかりと“アマミー”と出ているので間違いなさそうだ。
素早くヒメが斬りつける。
Kyuuuuuuuuuuuuuuuuu!
するとアマミーは悲鳴のような鳴き声を上げる。
「え?ちょ、待ちなさい!」
そしてそのまま一目散に逃げだした。
え?
逃げるの!?
それを追うヒメ、まっちゃ、そして私。
しかしアマミーと私達を遮るように何かが現れて追走の足は止まる。
目の前のモンスターは通してくれそうもないし、戦うしかないようだ。
現れたのは泥で作られたゴーレムのようなっだ。
鑑定でもマッドゴーレムと出ているので間違いなさそうだ。
身体が泥で出来ているからか物理攻撃は衝撃が吸収されあまり効いていないみたい。
「ヒメ、魔法いくよ!……ファイヤーボム!」
ヒメが一瞬引いたのを合図に魔法陣を叩き込む。
泥が戦いずらいなら焼いて固くしちゃえばいいんじゃないかと思ったのです。
前にも水のモンスターを凍らせて倒しやすくしたからその応用。
私だって戦闘でも学習しているんです。
目論見は成功したようで、ゴーレムの一部表面が岩肌のようになる。
ヒメも同じ個所に切り込む、なんとなくこちらの意図を察してくれたのだろう。ありがたい。そしてあっという間にマッドゴーレムは倒れた。
「ふぅ、ハナ凄いじゃない。一気に戦いやすくなったわ」
「効いてよかったよ。一か八かって感じではあったんだけどね」
「助かったわ、ありがとう。……それにしても、まんまと逃げられたわね」
「まさか、逃げるとは思わなかった」
マッドゴーレムが急に現れたから、もしかしたらアマミーが召還したのかもしれない。
「少し厄介ね。ただ倒すだけなら楽だったのだけど」
ただ、1度エンカウントしたのでこれでまっちゃの探知に引っ掛かるようになった。今度は逃げられないよう慎重に進めないとね。
「ハナ!そっちいったわ!」
「わかった!って、こっちもゴーレムきたー!まっちゃ!」
「キェー!」
あれから数時間、ひたすらアマミーを探して森の中をさ迷っている。
そろそろ夜が明ける時間になる。
「キェーーーーー!」
どうやらまっちゃがアマミーを倒したようだ。
あとはこのマッドゴーレムをどうにかするだけ。
ヒメに合流して1体ずつ確実に倒していく。
ずっと戦っていたせいか倒すのも慣れたものだ。
「ふぅ、どうにか倒せたわね」
「……うん、ちゃんとドロップしてるしもう十分かな?」
アマミーは夜の間しか出現しないのでそろそろ次にいこう。
ヒメから話を聞くとまずは木漏れ日が射すポイントを見つけなければいけないらしい。そしてその木漏れ日の中に入り、アマミーからドロップしたブラックドロップを手に持ち木漏れ日を吸収させる。すると木漏れ日の雫にアイテムが変化するらしい。
「ここなんかいいんじゃないかな?」
「そうね。条件にも合致しているし、ハナちょっとやってみたら?その間の警戒は任せて」
「わかった!よろしくね」
斜めに射す木漏れ日を遮らないようにスポットライトのようになっている光の中へと入る。そしてブラックドロップを取出し掌にのせる。すると空中に60という数字が表れた。段々と減っているのでこの数字が消えるまで光を当て続ければいいのだろう。
しかし、そんなに簡単でもないらしい。
数字が出た瞬間周りにモンスターが集まってきた。
まだ3体だけなのでどうにかヒメとまっちゃで何とかなっているが、時が経つのがいつもより遅く感じる。
よし!
無事0カウントまで数字が減り、ピカリと光って真っ黒だったブラックドロップが黄色のような黄緑のような温かい色味に変わった。
アイテム名も木漏れ日の雫となっているので成功だろう。
「出来たよ!」
「ふぅ、こっちも終わったわ。それにしても急に湧いてきたわね。さっきまで影もなかったのに」
「そういう仕様なのかな?まぁ、1分間だけみたいだからなんとかなるかな?」
「そうね。次からも私とまっちゃでハナを守るから、ハナは光を当てて頂戴」
「わかった。ありがとう」
次の木漏れ日スポットを探して歩いていくと30分くらい歩いたところで見つかった。
「じゃ、よろしくね」
こくんとヒメとまっちゃが頷くのをみて光の中へと入る。
アイテムを手にするとカウントが始まった。
「え?」
既に戦闘が始まったようで後ろで戦う音が聞こえてきた。
チラリとみるとさっきより多い。まだ何とかなっているみたいだが大丈夫だろうか。
そして先ほどよりかなり長く感じたカウントが終わった。
「終わったよ!」
そのまま戦闘に加わり程なくして全てのモンスターを倒し終えた。
「お疲れ様。……でもさっきより長くなかったかしら?」
「そうなの。実はカウントが120秒になってて、さっきの倍の時間になってたんだ。途中で知らせようと思ったんだけど、あの光の中に入ると声が外に聞こえないようになってるみたいで……」
「そうなの。これはちょっときつくなってきたわね。……おもしろいじゃない?やってやりましょう」
逆境になると燃えるタイプなのか、ヒメはにっこりと笑みを浮かべてふふふと笑った。
おかしいな?可憐な笑みのはずなのに威圧感が……。
次のポイントは探し出すのに1時間もかかってしまった。
今度はどのくらい時間がのびているのだろう?
1分ずつ増えていくならいいけど、倍だったら4分?きついな。
更に襲ってくるモンスターも増えるんだもんね。でもやらないわけにはいかない。よし、行くか。
「よろしくね」
そして光の中でアイテムを取り出す。
出たカウントは180。どうやら1分ずつ増えていく仕様らしい。
ただ、集まってきたモンスターは10体。さすがにヒメでも一気にひきうけは難しいだろう。まっちゃもいるが取りこぼしは出てしまう。何といっても全モンスターが私に向かってきているのだ。ある程度攻撃すれば攻撃者へと対象を変えるらしいのだが、こう多くては難しい。
やはりヒメとまっちゃを迂回したのか1匹のモンスターが目の前に現れた。
そして近づき大きな手を振り上げた時、木漏れ日を遮り掌にあるブラックドロップが陰った。
その瞬間。
パリィィィィィィィィン
「あぁーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「ハナ!?」
「キェ!?」
聞こえるはずのない私の声が聞こえて驚きの声をあげる2人。
目の前にモンスターがいるにもかかわらず、掌を凝視する。
先ほどまで光を集め輝いていたブラックドロップは砕け散り、今掌のなかには何も残っていなかった。
ガツン
「いた!」
あ、モンスターいるの忘れてた。
私の声に一瞬ひるんだモンスターだが、振り上げた大きな手はばっちり頭の上に落とされた。
げ、まともに受けたからかダメージが大きい。
「やったな!サンダーボム!」
確か雷属性が弱点だったモンスターに魔方陣を打ち込む。
そしてあとは斬って斬って斬りまくる。
あ
「《瞬斬》」
アーツも使って更に魔法陣、斬りつけ、という感じでなんとか1人で1体を倒した。普段刀のアーツは使わないけど、ボス戦以外でも使っていいんだよね。
そういや新しいアーツ覚えていたはずだから後で確認しておこう。まだ使ったことなかったな。
倒せて安心していると後ろからヒメとまっちゃがやってきた。
「ごめん、失敗しちゃった」
「こちらこそごめんなさい。そっちに行かせたばっかりに……」
「今回の時間は3分だったよ。どうやら陰っちゃうと失敗になっちゃうみたいだから次からまっちゃを私の前で守らせて後ろをヒメに守ってもらいたいかも。私はバリアで身を守るし、攻撃受けてもアイテムで回復するからさ。どうかな?ヒメには負担かけるけど……」
「そうね、それで行きましょう。出し惜しみしてられないわ」
「お願いね。あ、ヒメ1人で戦うことになるだろうからこれ持って行って」
そしてお薬をたくさんトレードで渡す。
ヒメが倒れたら終わりだもんね。こちらも出し惜しみしてられません。
ヒメはその量に驚いていたけど受け取ってくれた。
「清算はちゃんと後でするわよ?」
別にいいのに、とも思うけどタダっていうのも貰う方は気まずいもんね。
そして新たな木漏れ日スポット探しに向かった。