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次の日。
学校から即行で帰ってきてログイン。
宿題や予習なんかもやらなきゃだからちょこっとだけ。
お菓子屋や食べ物、飲み物なんかを作って準備オッケー。
打ち上げは21時からだからそれまでに色々終わらせないと。
そして諸々を終え2回目のログイン。
少し早めにログインしてテーブルに料理を盛り付ける。
ケーキスタンドも進化して、今では針金で作ったフレームにお皿が乗ったものになっている。カップも白い陶器に花の絵を描いたものになってちょこっと豪華に見える。
リルマの錬金術屋さんで買った絵具を使って書いたのだが、それに入れた飲み物は魅了耐性の効果が付与される。飲んでから30分なのは絵具のrankがCだからなのか?入れてる紅茶はrankAなんだけどね。
お皿にも書いてみたんだけどこっちに置いたお菓子などには魅了耐性はつかなかった。
そんなこんなで時間になり、転移陣がピカッと光る。
「いらっしゃい!」
「らららー!」
「ららら~!」
「きゅきゅきゅ~!」
全員でお出迎え。
ちゃんと転移陣の前に並んでいましたよ?
うちの子はとってもいい子だからきちんと待ってられるんです。
「よっ!昨日ぶり!」
「おつ」
そしてリビングでさっそく打ち上げだ。
「「ヤト、おめでとうー!」」
クオと打ち合わせていたセリフを言いながらクラッカーを鳴らす。
パーティーグッズは意外と道具屋さんに売ってるんだよね。
「ありがとう!ま、優勝はできなかったけどな」
「それでもベスト4だよ?十分凄いって!」
クオもコクコク頷いている。
「さ!ヤトの為に沢山作ったからいっぱい食べてね?」
「よっしゃ!いっただきまーっす!」
「きゅっきゅ~!」
ヤトと同じくらいまっちゃも嬉しそうにケーキに顔を突っ込む。
ずっとお預けしてたもんね。よく我慢したよまっちゃ!
「でも惜しかったよね。昨日の判定負けだもん」
「残念」
昨日の準決勝、相手は魔法剣士のようなプレイヤーだった。
ヤトは魔法系全然習得してないからそこでちょっと手こずっていたようだ。
「相手戦い方うまかったからなー。魔法も効果的に威力よりも補助重視だったし。かと言って威力の高い魔法はここぞって時に使ってくる。剣さばきも相当だったし、あれは負けても文句言えないな。悔しいけど!」
そしてヤトはプチケーキを口に頬張る。
「理解はしても納得はできない!やっぱ悔しいー!」
「そういう時は食べるに限るよ!まだまだあるからヤトいっぱい食べて!」
「またレベル上げ手伝う」
「うぅぅ……2人もありがとうー!ってかこのプリンうまっ!」
そしてヤトはパクパクケーキやプリン等のお菓子を食べてくれた。
クオもミーアとキララに囲まれて嬉しそうに食べている。
私はホールケーキに突っ込んで身動き取れなくなったまっちゃを救出しながらお菓子を食べた。あ、また突っ込んだ。
「ふぅ、こんなに甘いもの食べれるなんて本当幸せだ。ハナ、ありがとな!」
「私も幸せそうに食べてくれて嬉しい!また食べてね!」
「……ハナ、もう言っていい?」
取りあえずヤトが落ち着いたとみたクオが話を切り出した。
話すことと言えば昨日口止めしていた例の件しかないだろう。
なんだかヤトも巻き込んでしまうようで申し訳ないけれど、話さないわけにはいかないだろう。クオの表情はそう言っている。
クオに向かって一つ頷くと、代わりに説明してくれた。
「なんだそりゃ!?……ブラックリスト、対象、クラン、ゴースト」
そしてさっとメニューを開くとあっさりとブロックしてしまった。
「えぇ?や、ヤトいいの?」
「いいもなにも、そんな奴らと関わりたくないし。ま、あたしが何かされるってことはないだろうけど気持ちの問題かな。何かされたってやり返してやるけど」
そして鼻息荒く言い切った。
た、頼もしいです!
クオも頷いてくれている。
「2人ともありがとう……」
なんだか泣きそうになる。
ゲームだから泣けないけど!
「んー……でもそんな手使うやつもいるんだな。ちょっと楽観視してた。……ハナ、もう、うちらでクラン組んじゃうか?」
「え?」
「ハナとクオとあたしの3人で、基本方針は個人行動。たまにパーティー組んだりして出掛けたりとか、ま、今までと何もかわらないけどさ。実はあたしもたまに勧誘きたりしてんだよね。ま、適当に突っぱねてたけどそれもウザったいし」
「私も」
「え?クオも?」
コクンと頷くクオ。
「ハナがどっかのクランに所属したくないっていうのはわかってるけど、これからの事を考えると何かしらに入っておいたほうが面倒なくていいと思うよ?基本的にはメンバー増やさないし。ま、全員納得できる人ならいいかもしんないけどさ?」
「私はその条件ってすっごくありがたいけど、2人はいいの?」
「ま、お互いさまって感じかな?もしかしたらこっちのとばっちりがそっちに行くかもしんないけど、そこは勘弁な!」
どちらかというと私が迷惑かけることの方が多くなると思う。
自由に行動してよくって、誘われればパーティーを組むって、なんて魅力的なクラン。
束縛されるのが嫌でクランやパーティーはちょっと、って思ってたけど、これなら大歓迎だ。さらにメンバーがヤトとクオという親しいメンバーのみというのも魅力的。
「本当にいいの?……じゃ、お願いします」
「よろ」
「よっし!じゃあ、善は急げだ!これからクラン申請いっちゃうか!」
ということでやってきましたアラミアのギルド。
ここがこの世界のギルド本部になるんだって。
クランの立ち上げのクエストは他の街でも受けられるんだけど、最終的にアラミアのギルド本部へ来ないと承認されないらしい。
クラン立ち上げには各ギルドが発行しているクエストをこなして、更にレベルが基本種族の20以上という制限がある。で、このクエストが結構面倒らしいんだけど、なんとヤトが事前に全て終わらせてあるというので、後は申請だけなのだ。
以前クランでしか受付不可なクエストがあったので、クランを立ち上げようと思ったらしいんだけど、よくよく確認したら更に複数人で受けるという条件だった為、受けられないならクラン作る必要なくね?ということで申請していなかったらしい。
因みにクランは1人でも立ち上げることが出来る。
そんなわけで驚くほど速くクランの申請がなされたのだ。
クランのリーダーはヤト。
私やクオだと色々な面で不都合がありそうだし。
私は特にゲームの上での常識が……。
クオは人見知りでそういったポジションには向かないと拒否していた。
ま、リーダーと言っても特に何をするわけでもないのでヤトはあっさりと引き受けてくれた。
「はい、ではこちらで申請を完了致します。クランホームの設定はいかが致しますか?」
「あー……まだ考えてなかったんで保留でいいですか?」
「わかりました。ではお決まりになりましたらホーム建設地のある街のギルドへお越しください。その時クラン名等の情報もお聞きいたします。それまではこの承諾書は仮発行のものになりますのでお気を付けください。クラン限定のクエストも受付できますが、このままだとクランの名声は上がりませんのでご了承ください。他に何か質問等ございますでしょうか?」
「大丈夫です。ありがとう」
「ありがとうございました」
ヤトがギルドのお姉さんとの話が終わって戻ってきた。
「クランホームとかの設定するまで仮承認らしい。ホームどこにする?」
クランホームか。
そういえば土地が無料で貰えるんだっけ。
「うーん、私がよく使うのはウォルターニアかな?」
「私も」
「あそこはバザーも賑わってるもんな。じゃ、ウォルターニアでいっか」
「うん、そうだね」
場所が決まったのでさっそくウォルターニアのギルドへ行くかと思いきや。
「行く前にもう一つ決めなきゃなんないことがあるんだな、これが」
「え?」
「名前」
「正解!」
あ、クランの名前かぁ。
……私センスないってマリアとタクに言われてるしな。
「何がいい?やっぱ強そうなのがいいよな!」
「いや、もう2人に任せるよ。私センスないし」
「カッコいいの」
それからあーだこーだ言ったけど最終的に2つの候補に絞られた。
ヤトからは、『戦神』。
クオからは、『風林火山』。
なんだか2つとも物々しい感じだよね。
どうやら2人共出したはいいが、自分でもしっくり来ていないよう。
「ハナも一つくらいだしなよなー」
ヤトとクオから恨みがましい視線を投げられる。
「えー……。うーん……じゃぁ、このクランは基本は一人ひとり、自分自身が行動するってことで『セルフ』ってのは?なーんて、そのまんまだし駄目だよねー」
「……ま、いいんじゃないか?なんか一番わかりやすいな」
「同意」
「え!?」
ということで何故かクラン『セルフ』に決まってしまいました。
多分2人とも考えるのに疲れたんだろうなぁ。
名前も決まったのでさっそくウォルターニアへ移動。
そしてギルドに行くとクランホームとして提供できる土地の一覧を見せて貰った。
なんと無料で提供されるのは最低価格の100万Gの土地だけで、追加料金を払えば自分たちの好きな土地が購入できる。
やはり最低価格の土地だけあって辺鄙なところばかりだった。
なので追加料金を払ってそれなりの土地を探すことにした。
そしてクランホームに設定したのは、バザー市場からも近い道沿いにした。一等地ではないがそこそこ栄えているので人通りもけっこうある。
商業区にも行きやすいし、バザー市場へものアクセスもいいのでここに決めた。
が、やはり高かった。
土地だけで250万Gとのことです。
100万G引かれるから150万Gなので1人50万Gだった。
なんとかそのくらいはまだ蓄えがあったので即支払い。
ヤトもクオもさっと払うので驚いた。
ヤトは新しい装備は当分我慢って言ってたけど。
クオは使うことがあまりなくて知らないうちに貯まってたそうだ。
でクランホームとしてスタンダードな建物もついてくるので取りあえずはクランとして申請してしまおう、と手続きを進める。
最初の建物は1部屋しかついていなく家具もない。これもグレードアップすることで改装はできるのだが如何せんお金がない。
一応現物を見に行こうということになって来てみた。
「本当何にもないねー」
「本当だな」
「吃驚」
これじゃぁ、話もまともにできないな。
立ち話はいくらなんでもねぇ。
ってかここの道って何だか見覚えがあるんだよね。
「ちょっと外いってきていい?」
「ん?どこいくんだ?」
結局2人を引き連れ歩き出す。
目の前の通りを右に進み最初の道を右に曲がる。次に家2軒分行ったところにある路地を右に曲がった。そして見えてきたのはやはり以前店を開こうと思って買った古びた洋館。
なんとクランホームの真裏でした。
こんなことってありますか?
いや、現にあったんだけど。
「ここがどうかしたか?」
クオも不思議そうに見回している。
「えっと……説明するから一度うちのホームに帰らない?」
「そうだな。場所も確認できたし、あのクランホームをどう改装するかも話さないとだしな」