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「あなた達、先程から聞いていれば何てことを言ってらっしゃるの?そこのあなたも簡単に諦めない、信じない!」
見ると、ゴーストのメンバーの後ろに積みあがっていた木箱の上に1人の女の人が立っていた。クルクル巻かれた輝くような金髪の縦巻ロールをたなびかせ、キッと睨みつけている美人なお姉様。いや、ついお姉様と呼んでしまいたくなるような凛とした雰囲気をもっているんですよ。白銀に輝く鎧を身に着け白地に赤のラインが入ったミニスカートが可愛らしい。中はパニエのようなものを履いているのか、レースできちんと下着が見えないようにできているらしい。うん、職人業だね。
そして、しゅたっ、と軽く飛び降りるとゆっくりとこちらへ歩いてきた。
ゴーストのメンバーは気押されたのか何も言われずとも道を譲る。
って十戒か!
私の目の前までくると、くるりと向きを変えゴーストへびしっと指を突きつける。
「あなた達が言っていることはおかしなことばかりだわ。そんなこと簡単にできないし、そこまでの組織力もないんじゃないかしら?もし出来たとしても、そんなことをしたら運営に知られて下手すればアカウント停止よ?」
「余計なことは言うな!というか貴様どこから現れた!?ここはいまプライベートルームを展開しているはずだ!」
「だって私、あなた達が来る前からこちらに居りましたもの」
「な!?おい!きちんと調べたんじゃないのか!?」
「え?だってそんな反応は……」
「あらあら、そちらのスキルレベルが低かったのでは?私の隠密スキルの方が高かっただけですわね」
「くそ!」
え?え?えええ?
一体何が起こっているのでしょう。
私にはさっぱりです。
あ、まっちゃもよくわかってなさそう。しきりに首を傾げている。
というか、このお姉様の言うことによると、さっきから男が言っていたのは口から出まかせで仲間になってしまえばこっちのもん、ってこと?
するといきなり“クラン加入の申請”というウィンドウが開いた。
「おい!お前!いいからそれを承諾しろ!」
おいおーい、お兄さん?
言葉が乱れてますよ。
今の話を聞いて、あなたの態度をみてこれ承諾する人っていますか?
すぐさま“拒否”を押してやった。
「っく!」
そしたらすぐ再申請された。
すごい根性ですね。
「はぁ、あなたここがプライベートルームだからって油断しすぎじゃないかしら?運営は見ようと思えばこの状況も確認できるのよ?」
「な!?そんな話は……」
「あるの。そりゃ何もなければ覗きなんて暇なことはしないけれども、ね。あなたそんなことも知らないでこれを使っていたの?おバカさんね」
いやー、そんな正直に。
ほら、相手顔真っ赤ですよ?
「うるさい!いいから早く承諾しろ!」
既に再申請は拒否してあったので、再再申請が送られてきました。
自分でやってることわかってる?
ひっこみつかなくなってるのかな?
「はぁ、埒があかないわね。そこの貴女、もう彼らをブロックしてしまいなさいな」
「ブロック?」
「え?」
「え?」
「こっちを無視するなー!」
お姉様、呆れた顔と納得の顔をしてらっしゃいますがどうしました?
「なるほどね。どうして貴女がこんな奴らに嵌ってしまったのか少しわかったわ。ブロックというのはブラックリストに名前をのせること。つまり関係を拒否することよ」
「あ、ブラックリスト!」
そういえばマリアから説明されていたな。
リルマでの勧誘騒動の時、マリアが心配して来てくれた。
その時ブラックリストの事を聞いたんだった。
知らないと言ったらマリアにも呆れられたけど。
以前にも言われたが、少しくらいヘルプを見なさいと怒られてしまった。
こういったゲームには説明書がソフトについてこない。
かわりにメニューの中にそういったページが存在するのだ。
WROではヘルプページに一緒に載っているので普通は必要最低限は皆確認するよう。
……忘れてました。
いつもゲームは説明書読まずに感覚でやっちゃうからな。
ということでマリアにブラックリストの説明はしてもらっていたのだが、使う機会もないし忘れていた。
ブラックリストに登録すると登録時に一定時間接触不可になるらしい。そしてその後フレンド登録、トレード、売買等が出来なくなる。なのでコールやメールも勿論使えない。それにパーティーも組めない。
ということで、よほどのことがないとブラックリストには載せないようにしようと思ってたけど、これはよほどのことですよね?
「ま、待て!気軽にブロックになんか使ったら大変なことになるぞ!」
えーっと使い方は、と。
「むやみに使うと使った方もペナルティーを受けるんだからな!」
そうそう、メニューを開いて。
「ブラックリスト、対象、クラン、ゴースト」
「おい!まっ……」
するといきなり目の前からゴーストのメンバーが消えた。
「おぉ、消えた!」
「ふふ、消えたように見えるのは貴女だけ。私の目には叫び喚く無様な様が映っているわ。ブラックリスト、対象、クラン、ゴースト」
「え?いいんですか?」
「いいのよ、目の前から消えて清々するわ。以前から良くない噂があったし、こうなって後悔もないわ」
すがすがしい顔で言われては何も言えない。
「あ、でも最後ペナルティーって」
「ああ、あれは誰彼かまわずブロックして逆に運営から警告を受けたって人がいるだけよ。まぁ、そんなことしてブロックすれば自分の首を絞めているだけだけれどね。その人はそれを掲示板で言いふらしていてね、あの人は酷いからブロックしたとか。そんな迷惑行為を繰り返したから自業自得ね。普通ペナルティーなんてないわ」
「ならよかったです」
「貴女おそらく初心者でしょう?少しは知識を集めた方がいいわ。でないと相手の思う壺よ?まぁ、こんなことはそうそうないでしょうけど、気に留めておいた方がいいわ」
「そうですね。気を付けます」
しゅんとなってそう言うとお姉様は満足したように頷く。
「あと念の為お友達にもブロックおすすめしておいた方がいいと思うわよ?」
「あ、そうですね。重ね重ねありがとうございます」
「いいのよ。では私は行くわね?失礼」
「あ!」
止める暇もなく去って行ってしまった。
名前も聞いてないよ。
リーン、リーン
その時コールがきたようで慌てて繋ぐ。
「はい」
『ハナ!?大丈夫!?』
繋ぐと直ぐにとても慌てたような声が響いた。
「クオ!ごめんねいきなりコール切れちゃって。一応大丈夫になったので今から合流するね!」
『わかった。コロッセオ入口いる』
「うん、すぐ行くね!」
クオにも迷惑かけちゃったな。
何か対策たてた方がいいのかな?
「きゅきゅぅ〜?」
「大丈夫だよ、まっちゃ。とりあえずクオと合流しようか?」
そして地図を頼りにコロッセオに向かう。
相当入り組んでいたらしく結構迷ってしまった。途中ヤトの試合が始まってしまったのでクオには先に観覧席に行ってもらった。
会場に着いた時にはヤトが丁度相手を倒したところだった。
ま、間に合わなかった……。
クオを見つけて合流。
「ハナ!」
「心配かけてごめんね。ちょっとドジっちゃってさ」
「大丈夫?」
あぁ、クオにこんな心配かけさせちゃって、反省です。今回は私の無知さもあっての事だから、これからちゃんと少しは勉強しなきゃ。
「うん。前から勧誘しつこかったゴーストってクランあったでしょ?あそこに騙されて連れてかれてクラン入れって脅されたの。でも偶然その場に居合わせたプレイヤーの人が助けてくれて、ゴーストをブラックリストに登録して一見落着、かな?」
「まだ諦めてないの……」
クオがちょっと呆れた顔をした。
本当だよね。
「それでクランに入らないと仲のいいクオに酷いことするって言ってて……」
「!?」
「巻き込んじゃってごめんね。念の為クオにもブロック……」
「ブラックリスト、対象、クラン、ゴースト」
言い切る前にクオのブロックは完了した。
「卑怯者許せない。ブロック、当然。ハナ、気にしない」
「本当ごめんね!ありがとう!」
クオにひしっと抱きつく。
巻き込んだことは本当に申し訳ないけど、だからってクオと離れたくはない。
「あ、あとヤトにはこの事内緒にしておいて?」
「何故?」
「ずっとってわけじゃなくて、このイベントが終わるまで。ヤト頑張ってたからこの大会に集中して欲しいんだ」
「……わかった」
「ありがとう」
そして再度ひしっと抱きつく。
すっぽり腕に収まる小柄なクオは本当可愛い。
これはファンクラブがあってもおかしくない。
「なーに2人でイチャラブしてんだ?皆見てるぞ?」
そこへ控室から戻ったヤトがやってきた。
言われたとおり周りを見ると一斉に周りの人から目をそらされる。
は、恥ずかしい!
「ヤトお疲れさま!これであと1回勝てば明日の決勝トーナメントだね!」
「ま、次も負ける気はないけどね!でも念の為次当たるのがこの後の試合勝った方だから見てから屋台巡るのでいい?」
「勿論だよ」
「おけ」
そしてそのまま座って観戦を続けることになった。
勝ったのは大剣を使う男の人だった。
そして次のヤトの試合にも再度賭けてとあっという間に2日目も終わってしまった。
勿論ヤトは勝ちました。
もう別行動はしないようにとクオがずっとついていてくれた。
そして3日目。
決勝トーナメントもヤトは順調に勝ち進み、準決勝まで勝ち進んだ。
けれど残念ながらそこで負けてしまった。
ベスト4でした。
って言っても、35000人のうちの4人だから相当すごいけどね。
イベントの参加賞としてポーションセットが貰えた。
トップポーション・MPトップポーション・リバースポーションのセットだ。
全部rankCだったけどリバースポーションは嬉しい。
未だ作成できる人はいないので品薄状態なのだ。
そしてあっという間にイベントは終わってしまった。
ヤトやクオと騒いで、とっても楽しかった……と思う。
実際は心の中にあったモヤモヤがずっと晴れなくて、楽しかったけどあまりよく覚えていない。
ふとした瞬間に勧誘事件の事が思い出されて気がめいっていた。
時々クオには気づかれていたようで心配そうな瞳を向けられたが、笑ってごまかした。
……ごまかせていなかったと思うけど。
そうそう優勝はジーンだった。
やっぱり凄い人なんだって改めて思ったよ。
決勝みたけど凄すぎてよくわからなかった。
もう動きが普通じゃなかったんだもん。
さすがゲーム世界って感じで、私も頑張ればああなれるのかな?
いや、無理だ、と思ってしまった。
タクは無事決勝トーナメントに進んで1回戦は勝ち上がったけど、2回戦で負けてしまった。
タクってこんなに強かったんだね。
いや、本当知らなかった。
そんなこんなでイベント終了してヤトとクオと別れた。打ち上げは明日私のホームでする予定。
よし!いつまでもモヤモヤしててもしょうがないよね。
切り替えよう。
明日はヤトの好きなお菓子沢山作って労わなくっちゃ!では今日はログアウト。