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3日目。
もうイベントも最終日になってしまった。ボスを倒したら一旦街へ帰ることになっている。
さてさて、最後はどんな敵かな?
ヤトは楽しみだからと言って、今回のボスの情報は掲示板で見てないらしい。ま、私も今までぶっつけ本番ばかりだったから異論はありません。
残り少なくなったタブレットでドーピングしていざボス戦です。
「よし、行くぞ!」
ヤトが代表して扉を開ける、と毎度お馴染み体の自由が奪われ独りでに歩き出す、というようなことはなく自由に体が動かせる。
とりあえず部屋に入ると独りでに扉がバタンとしまった。
その空間は雰囲気的には森の中、周りを木々が隙間なく埋め、樹の壁が円形に出来ていた。地面は青々と草が覆っている。
そして中央には1本の真っ赤なサルビアの花。
え?
これってもしかしなくても、あれですよね……?
え゛?
ちょっと待て。
サルビアって茎の先に赤い花がいくつもついてるんだよ。
これってもしかして、もしかしなくても……。
と、考えているうちにヤトがずんずん進んでサルビアに触れる。
と、そこでお決まりの地割れがおこり宙に投げ出される。
やっぱりー!?
目に入ってきたのは巨大なサルビア。その赤い花一つ一つから気持ち悪い舌が垂れ下がっている。
き、気持ち悪いー!
Saryuuuuuuuuuuuuu!
私達が着地したと同時にサルビアが咆哮をあげる。
さぁ、戦闘開始です。
先ずは先行してヤトとまっちゃがサルビアへ向かっていく。
私は一旦離れて《守人の舞》を踊る。クオはそ間の護衛と、魔法を放つことになっている。
ヤト1人いればヘイトをかせぐことは簡単だろうが念のためだ。もしかしたら取り巻きがいるかもしれない、ということもあったがそれは杞憂で終わった。
何ごともなく舞を踊りきりクオに合流。
「お待たせ!」
「行こ」
「うん!」
クラゲの件もあって個別に挑むのはリスクがあるので、ペアになってボスに挑むことになっている。
ヤトは1人で大丈夫かもしれないけど、念のため。
こちらが攻撃に移ることを感じてヤトがまっちゃに指示し右側へ移る。
私達は左側だ。
こいつらにはやっぱり火でしょ。
火系特化を惜しみ無く使いましょう。
「ファイヤートルネード!」
炎の渦がサルビアに当たる。
それを追ってクオが走る。
「《乱百華》」
炎を突き破るようにクオがサルビアへ棍を突きまくる。
突くと同時に咲き誇る華々。
エフェクトが綺麗だ。
と、見とれてる場合じゃない。
クオのアーツが終わるタイミングで今度は私がアーツを発動させる。
「《桜咲》」
クールタイムは考えず強いやつって言われていたので2番目に威力のある《桜咲》を発動。《瞬斬》でも良かったんだけど、より広範囲に効くのが《桜咲》なんだよね。だからこっちを選択。
なんと舌を1本切り落とすことに成功。幸先いいね!
……ちょっとずつ生えてたけど。
その後は基本クオが前で攻撃を払いながら攻撃。私は魔法陣と回復を中心に戦った。
アーツが回復したらタイミングを合わせて攻撃だ。全く知らなかったんだけど、上手く攻撃を連続で当てるとダメージが加算されるらしい。
但し同じ人物が連続で攻撃してもダメだ。なので2人以上でないと出来ないらしい。更に通常攻撃よりもアーツでの連続攻撃の方が効果が高いという。
知らなかった、って言ったら相当驚かれたけどね。
ま、それは置いておいて今は目の前のセルビアです。
途中から通常のセルビアなら蜜を吸える花弁部分を凄い勢いで飛ばしてきたり、花の茎がいきなり伸びて花に噛みつかれたり、クオがベロに巻き付かれてベトベトになったり……。
やはりレベルが高い分頑丈だし素早いしで手こずった。
でも海の頃からクオとは一緒に戦ってきたので、連携もとれてきてクラゲよりも戦いやすかったかもしれない。
向こう側からは、派手な音と共に笑い声が聞こえてきたのでヤトとまっちゃは、まぁ、問題なかったのだろう。
Biiiiiiiiiiiiiiiia!
結構時間はかかってしまったが無事倒すことができたようです。
終わって良かったー。
そしてサルビアの後には宝箱が。
中から出てきたのは魔土というものでこれも素材になるそうだ。
……これ、畑にまいたらどうなるかな?勿体無い気もするが今度やってみようかな、なんて。
「お疲れ!無事倒せたな!」
「おつ」
「お疲れさま!2人のおかげだよー。本当ありがとね!」
そして私達は転移陣に乗り31階層へ向かう。
視界が開けるとそこは今までのボス階層と同じように扉があった。
違うところとといえば、扉がちょっと禍々しくなったのと転移の為の石碑があることくらい。
あと扉にある数字か。
扉には大きな星マークが描かれており、その5つの先端にはそれぞれ数字があった。どれもバラバラではあるが、共通項としては全部が少しずつ減っていることくらいだろう。
「この数字があの砂時計のとこにある数字なんだよね?」
「そうらしいな。でも何で5つもあるんだ?」
「ダンジョン、5つに別れてる」
おそらく掲示板を見てるだろうクオが教えてくれた。メニューを視認出来るようにしてもらい、ヤトと一緒に覗き込む。
「へー」
「ほー」
どうやらダンジョンは5つあるらしい。砂時計のある街も5つ。
街はひし形をしており全てが隣り合い全部で星形を作っているらしい。他の街に移ることはできない。だから最初に合流出来ない可能性があるって書いてあったんだな。
そして各街にダンジョンがあり、街ごとに砂時計がある。つまりこのボス部屋の扉にある数字は各街の進捗状況を表している、ということらしい。
その数字の中でも枠が一回り大きいのがどうやら私達のいる街の数字らしい。
うーん、3番目くらいかな?
私達の街はやっと600万ポイントを切ったところだ。こうみると膨大な数字だが、最初は3000万ポイントから始まったのでかなり減ってはいるのだ。
WROは現在5万人くらいのプレイヤーがいるらしい。
全員参加しているかはわからないが、均等に5つの街に割り当てられているなら1つの街には1万人くらいプレイヤーがいることになる。ノルマは1人3000ポイントくらいになるのかな?
最初の9階層まではモンスターを倒しても1体につき1ポイントだが、11階層から19階層までは貰えるポイントがバラバラで各5ポイント前後、21階層から22階層までは各10ポイント前後もらえる。
採取や採掘は数とれるからかポイントは少ない。1~19階層までは1つにつき1ポイント、21~29階層までは2ポイントだった。しかしレアなものはポイントが高く、採取師、採掘師、採師でしかとれないものはそれぞれ30ポイントだった。ボスは更にポイントが高く、10階層は100ポイント、20階層は200ポイント、30階層は300ポイントだった。15階層と25階層の隠しボスは150ポイント、250ポイントと結構稼げた。ただ、ヤトが言ってたが2回目からはボス撃破のポイントが激減したんだって。20階層のボスは2回目は20ポイントだったらしい。ボスの周回して楽にポイント稼ぐことは出来ないようだ。
この最終ボスの扉は5つの街全部の数字が0にならないと開かないということだろう。
「どうやらこれ以上は進めないみたいだな。じゃ、帰るか?」
「帰る」
「そうだね、行こうか」
ということで30階層まではパーフェクト達成です。達成感があります。
いやー、本当ヤトとクオに出会えて良かった。
あとは31階層だけだけど、どうなりますかね?
石碑から街へと戻る。
なんだかとても久しぶりな気がするな。
「この後はどうする?あたしはまた戦いに行くけど」
「種採取」
どうやら2人ともまたダンジョンに潜るようだ。私もクオと同じく種をとりに行きたいのだけど……お薬関係が心許ない。最後のボスを倒すことを考えるならば補充しておいた方がいいよね?
「私はちょっとポーション類の補充してくる。ボス解放されたら合流でいいかな?」
「ハナのハイポーションやタブレットにはかなりお世話になったからなー。必要なのはある?」
「材料渡す」
「本当に!?じゃ、高級薬草とハイマジックリーフがあれば欲しいかな?」
そしたらクオからかなりの量送られてきた。
「こんなにいいの!?」
「今までのお礼も」
「これから採ってくればいいしな!」
「その通り」
ということでパーティーはそのままで別行動することになった。
そして私とまっちゃは生産設備へ、ヤトとクオはダンジョンへと戻って行った。
まずはハイポーションから作ろう。一番需要が高いからね。
まっちゃにふみふみ頑張ってもらいましょう。高級薬草はまだまだ修行が必要だからね。今後の為にもまっちゃにはレベルアップしてもらいましょう!
私はアーツで細かくしたものを更にすり潰す。
そして鍋に入れて混ぜ混ぜです。
簡易セットだからかやっぱりホームに置いてある鍋よりも混ぜるのが難しい気がする。
慎重にいきましょうかね。
ぐるぐる……ぐつぐつ……。
そんなこんなでひたすらすり潰しては鍋を混ぜてを繰り返した。
途中気分を変えてタブレットも作ったが、最後にはまたハイポーション作りに戻った。
どれくらい経っただろうか。
ヤトからコールが入った。
『ハナまだ生産中?』
「あ、うん。何かあった?」
『その感じだとメール見てないな?』
「メール?」
『運営からメールきてさ。最終ボスが解放されるらしいぞ?一度合流しよう』
「わかった。どこに行けばいい?」
『砂時計の前でクオと待ってるわ』
「わかった。今から行くね」
コールを切ると途中だったハイポーションを急いで作り上げる。
後は瓶にそそぐだけだったので丁度良かった。
「まっちゃ!お出かけだよー」
道具を片づけ、途中で疲れてお昼寝していたまっちゃを頭に乗せて準備完了。
「きゅぅぅ?」
まっちゃは寝ぼけ眼だったのでやっぱり腕に抱えなおして施設を出る。
「お待たせ!」
砂時計のある場所はちょっとした広場になっているのだけど、かなりの人が集まってきていた。
「お疲れ!」
「おつ」
砂時計のところにいる2人にたどり着くまでに結構かかってしまった。
「なんか凄い混んでるね?」
「ハナまさかまだメール読んでないとか?」
ヤトが驚いているが、そういえば忘れていた。
慌てて施設を出たのでまだいていなかったのだ。
「ごめん、慌ててて……」
そしてメールを開いてみる。
そこには“ダンジョンの主に通じる扉が開かれた”というタイトルが書かれていた。
内容は冒険者達のお蔭で扉を開ける砂時計の砂を落としきることに成功したこと。そしてダンジョンの主に挑戦出来るのは1パーティーのみということが書かれていた。
どうやらこの砂を落としきるのに一番貢献したパーティーが選ばれるらしい。条件としてはさらに30階層のボスを倒していること、召還時に砂時計もしくはダンジョン入り口のある石碑がある広場にあること、とあった。
ソロでも1パーティーとみなし、パーティーポイントの高い順に挑戦権が得られるらしい。挑戦したパーティーが全滅した場合は2番目に貢献したパーティーが召還されるという。
現在私の左手の甲には個人のポイントが、右手の甲にはパーティーのポイントが表示されている。つまり右手の数字が何番目かってことだよね。
というか1パーティーで最終ボスが倒せるものなのかな?
ま、うちらが選ばれることはないかな?
フルメンバーで潜ってるパーティーの方がポイント高いだろうしね。
「読めたか?」
「うん、だからこんなに人が集まってたんだね」
メールには召還の時間は10時と書いてあった。
メールが来たのが9時過ぎで、今が9時50分くらいか。
けっこうギリギリだったんだね。
「ま、うちらが選ばれることはないだろうが念の為な」
「あ、まだ時間あるし作った薬渡すね!」
あと10分は暇なのでそのうちに2人に作ったハイポーションやらタブレットやらを送る。
「いっぱい、いいの?」
クオはその数に驚いていたが、材料は貰ってるしかなりお世話になったのでまったく問題ないのです。
「お、そろそろだぞ!」
ヤトの言葉が終わると同時に広場にいる人全員の目の前にウィンドウが開かれた。
そこには……。
「「「え?」」」
私達3人の呟きが被ると同時に足元が光り出し、視界は閉ざされた。
ポイント貢献パーティー
1位 ハナパーティー 36605p