EP2-0 魔弾の行方。
「人間ってのはエゴだよなぁ。生きるために家畜を肥やして殺し、住むために森林ぶった切って燃やして建ててな。だけどよぉ、人間ってのはやっぱりエコだとも思うんだよ。産まれて生きて、産んで死んで。一個体を見なけりゃ立派なリサイクルだ。家屋も家具も家畜も友人も全部縦に、歴史に連なり伸び続ける。人を殺すことを良しとぜすに律するのも、リサイクルの循環を早めてしまうことを無意識に拒否するからだ。……ってのは建前。人間正直に生きれば欲に塗れる。だから、隣の友人が死んだら自分の生活に何かしらの変化が起こる。その変化が気に入らないために、人を殺すことを隣人が死ぬことに直結させ、感情論で人を殺すことは罪であると律するようになったってことだな」
部屋の天井に吊るされた照明が薄暗く辺りを照らしている。その中で蠢くように、ビーカーを巨大化したような培養器の周りを歩く白衣の男が居た。
無精髭やボサボサの伸びた髪をどうでも良いと無視して、研究に研究を重ね十八年を掛けて研究し尽くした男性は笑っていた。
「起動実験は悠々。手加減の無さが素晴らしいから優付けてやる。ようやくこれで復讐を果たせる。なぁーー、我が娘?」
目を閉じた白髪の少女が培養器の中で揺蕩う。
男ーー蠣崎輝夫は笑いながら泣いていた。
ようやく辿り着いた実験の成功。涙せずには居られぬ壮絶な日々の結晶。
怪人とヒーローのせいで全てを失った男は嘲笑うかのように叫んだ。
「運命よ! さもなくば抗えと煽った貴様に感謝せざるを得ない! この復讐、絶対に相打ちには終わらぬ! 覚悟せよ、狩人よ。汝、亡霊になるべし! 魔王は現れる! 貴様らの前になぁ!!」
憎悪の焔に酷く焼け焦げた心はまさに怨霊。
幕が開けるは悲劇の賛美歌、始まる劇は悲劇に惨劇。終わらぬ止まらぬ憎悪の火の手は怨霊が生きし者を誘うように、伸びて伸びてようやく掴む。
例えそれが己の十字架になろうとも、神罰は当たらぬと彼は唸る。
「魔王は這い寄り始めたぞーー」
怨敵の名を二つ呟いた彼は白衣を翻し、培養器に背を向けて歩き出す。
蠣崎輝夫は今宵、魔王を名乗る。憎むべき怨敵の首を刈らんと、刃先を向けるために。