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EP1-7 小さなヒーロー。

 仁郷と別れた小百合は、パトロールに戻りながら新しい一面をたくさん見たことを思い出していた。

 ヒーローが嫌いなのに、ヒーローを求める。

 矛盾めいたその事実に小百合は唸りながら、見慣れた大通りへつま先を向ける。

 

(……違う。仁郷さんはヒーローを、“今”のヒーローを……、“調整人間”を嫌っているんだ)


 つまりそれは、仁郷が本来の意味のヒーローを嫌っていないことを表す。

 ーー殺したい程に恋い焦がれてるさ。

 変わらぬままに、今のままに、殺して留めていたい程に、きっと仁郷はヒーローが好きなんだろう。

 仁郷の言葉が本当ならば、今も拡がり続けるヒーロー像は英雄機関によって作られた調整人間たちのための都合の良い隠れ蓑のことになる。

 

(ああ、成る程。仁郷さんはそれだから……)


 ーー一般人を守ることは確かに“善だ”。

 “ヒーロー”として怪人を倒す“正義”は“善”だろう。

 ーーああ、“善”だ。

 “調整人間”が世間一般に認められるための隠れ蓑(ヒーロー)ならばそれは。

 ーー偽善だ。

 本来のヒーローとしての善ならば、偽善ではない。

 そして、それを知らず、知ろうとせず、当然のようにヒーローを騙る“調整人間”(ヒーロー)を、仁郷は心の底から嫌う。


(……ヒーローかぁ)


 知らぬ世界に足を踏み入れた時点で、それはすでに世界を更新させるプロセスに早変わりする。

 小百合は優しい少女だ。

 優しい人間とは、受け止めて包み込める心がある人間ということだ。当たり前に使われる優しさは上辺だけ、心から優しい人間なんて居やしない。

 そんな世の中だからこそ、本当の優しさを持つ小百合を仁郷は“ヒーロー見習い”と呼んだ。

 全てを暖めて「がはは」と包み込める太陽な男を仁郷は“ヒーロー”と呼んだのだ。

 頭空っぽの方が夢を詰め込めるだなんて、真実めいた冗談を誰が言ったのだろうか。


(仁郷さんは自分に向き合い続けたから、今の平和を掴み取りたかったんだ。怪人じゃない、一人の混合人間として、争いが続く頃の世界を認めたくなかったんだ)


 不毛過ぎて、可笑し過ぎて、馬鹿馬鹿し過ぎて。

 怪人とヒーローの複雑な関係に疑問を持ち続けて、“怪人最強”と呼ばれるまで諦めもせず、ヒーローの意味を問い続けたんだろう。

 

『世代は変わるべきだ。古臭くて薄っぺらい世代は終わり、新しい風を吹かす。それが俺の目標だ。……今日は夜に出歩くなよ。最近物騒だからな』


 そう言って仁郷は小百合の頭をくしゃりと撫でて、最初の意気消沈が嘘のようなピンとした背中を見せて去った。

 

(……たぶん、仁郷さんは新しい風が吹いた世界に自分が居ることを良しとしないんだろうな。今にも壊れそうな顔なのに、自分が傷付くことを率先してるみたいだった)


 ーーでも、わたしに何ができるのかな。

 頭越しに諦めることを止めた小百合は強かった。

 力ではなく、心が強くなれた。

 もし、彼女に力があったのなら、今のように生きることは無かっただろう。

 弱いから、弱いからこそ、成功を諦めなかった。

 絶対に無理だと言われたヒーローになりたいと願い続けて、今ようやく、やるべき目標を探し始めた。

 

(……よし、今日から筋トレを増やそう! 二……ご、五回増やそう)


 マイペースな思考に戻りつつも、小百合は前を見ていた。後ろばかり見ていた頃を吹き飛ばすように。

 

 

一章〜怪人邂逅〜終了。


次話から


二章〜機人襲来〜を開始します。


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