プロローグ
iPhoneからの投稿です。
ミスがあるかもしれませんが、感想にアドバイスをくださると嬉しいです。
感想は最新話まで読んでからお願い致します。
「よおーー“人殺し”」
欠けた月が映える薄暗い路地裏。
彼は一瞬その言葉を言われた人物が自分ではないと錯覚した。
しかしながら路地裏に屯する不良もダンボールを加工するホームレスの姿はなく、かといってカップルや塾帰りの学生が居るわけでもない。
その言葉は確かに自分に向けて発せられたのだと自覚した彼はゆっくりと後ろを振り向く。
「いや、“怪人殺し”と呼ぶべきか。呵々ッ」
笑い声にしては異質なそれ。
路地裏の陰から月明かりが照らす場所へと歩みを進めたそのフードを被った男は彼の知り合いには見えなかった。
彼は先ほどの“怪人殺し”というワードに反応し、“同業者”か、と考える。
あの呼びかけは“同業者”故の皮肉だったかと問えば。
否。
はっきりとした殺意が先程の声色には孕んでいた。
「誰だ」
そう彼ーーヒーローと呼ばれる存在たる人物が目の前の人物に警戒しながら尋ねれば、その男は呵々ッとまるで刃物を擦り合わせて鳴らすような笑い声で答えた。
フードの男は顔を上手く隠しながらポケットに入れていた右手を引き抜き、掌サイズのキューブを見せつけ、炯炯と艶やかに月光を反射するそれは数秒後にポケットへ戻された。
驚愕する彼の顔を見て、男は再び呵々ッと笑い声を上げた。
「何故あんたがそれをーーアルカナキューブを持っているんだ」
アルカナキューブ。
世界を破滅に追い込むとされる異界の代物であり、街の影に潜む暗躍組織にとってそれは世界を支配する一手に成り得る禁断の箱。
そしてヒーローと怪人が奪い合い闘う理由の“火種”にも成り得る。
彼はこの路地裏付近に墜落したキューブを回収するために派遣されたヒーローの一人。他の仲間も探索に当たっている筈だというのに、それはフードの男が持っていた。
極秘中の極秘たるそれを一般人が知り得る筈もない。
ようやく彼は目の前の男の正体を悟る。
だが、その瞬間すでに事は終わっていた。
何かが潰れた音が彼の耳が“内側”から聞き取る。
自分の腹を蹴り飛ばされたと気付いた頃には貫通されたかのような鋭過ぎる痛みが腹を中心にして拡がる。
彼は遠ざかる男の右靴底を見てーー。
「“怪人”がぁぁああッ!!」
と苦し紛れに叫んだ。
血反吐を吐きながらのその顔は酷く醜い。
直後、彼は停めてあった白いワゴン車に激突し、意識を絶たれる。
その様子を愉快そうに見送ったフードの男は再び呵々ッと笑い、踵を返して路地裏の影に消えていった。
変身スーツを着なければただの人間たる彼は内臓を一部破裂させた状態で駆け付けた仲間に回収された。
これが英雄機関を震撼させた第二千三号作戦の失敗の記録である。