あの子って、実は意外と……(14)
「でしたら、あたしのことも下の名前で呼んでください。下の名前で呼ばれることが多いので」
「そうか? じゃあどうしようか……絵玖ちゃん、絵玖たん、絵玖っち、絵玖様、絵玖ちん……うーん、悩むな」
「五十……秀吾くんが良いのなら、今挙げたものでも構わないですよ」
「いや、さすがに学校で『たん』とか『様』とかで呼ぶ度胸はないな。追っかけみたいだし……須貝は元アイドルだから冗談とも思ってもらえないかもしれないしな」
「ファンになってくれるのは、それはそれで嬉しいですけどね」
「申し訳ないが、俺アイドルとかは全く知らないんだよ」
「いえいえ、別に知らなくても構わないです。むしろ、知らないでいたほうが個人的には……」
「じゃあまあ、シンプルに絵玖って呼ばせてもらおう」
「はい」
お、良い笑顔だ。今さらだが、どうして先週に友達にならなかったのかが悔やまれるな。
「改めて、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあそろそろ、アイスでも食いに行こうか。気分が良いから奢ってやるぞ」
「え? いいんですか?」
「おお、いいぞ。……といっても、一本60円ていう激安だけどな」
「それでも、奢ってくれるのはとっても嬉しいです。にしても60円って……すごいですね。元が取れているんでしょうか?」
「どうだろう。そもそも、営んでるのはおばあちゃんなんだけど、あの人ももうかなり歳だからな。正直元が取れようが取れまいがどうでもいいってところはあるかもしれんな。そういうのも、田舎ならではって感じがするだろ? 心配するな、安いからといって不味いわけじゃない。とっても美味だから」
「はい、とっても楽しみです」
「……アイスは好きなほうか?」
「はい、好きですよ。三時のおやつとかでよく食べたりしていましたから――」
――とまあ、それからは他愛のない話をしながら駄菓子屋へ向かい、約束通りアイスを奢って一緒に食べた。
口に合うか少しばかり心配していたんだが、絵玖の口にもちゃんと合っていたらしく、とっても美味しいと好評だった。
人生というのは、本当に不思議な巡り合わせだなって実感したな。
もし俺があの時駄菓子屋に行こうと思い立たなければ、絵玖と友達にはなれず、絵玖はあのまま状況を打破できずに夜を明かしていたかもしれない。
いや、それはないか、帰って来なかったら家の人が心配して助けに来るか……。
まあ何にせよ、幸運にもこんなに早く絵玖と友達になれたんだ、この関係は大事にしていかないとな、うん。
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