プロローグ~忘れられない日々の始まり~(3)
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――それから数分、ようやく今日初めての人間と出会った。
「おう、秀吾~。おっは~」
「相変わらず言葉のチョイスが古いな~お前は。今時そんな挨拶使う人おらんぞ?」
「仕方ねぇだろ? この村の影響か、時代の波に付いていくことができないんだからよ~。新聞だって一日置きくらいでしか来ねぇし」
「分からんでもないが、10年はさすがに遅れすぎじゃないか? せめて1、2年前のものを使わなければ、誰もついていけん。俺が同い年だからよかったものの」
「そうか、じゃあ明日は違うの考えてくるわ。期待しててくれ」
「滑ったらソーダアイス奢らせるからな。しかも10本くらい」
「おい、マジかよ。ペナルティーありっすかい。つかそんなに食えんの? お前」
「そっちのほうが、マシなものに仕上がるんじゃないかと思ってな。亮はそっちタイプの人間だろ。食えるか食えないかは、その場で判断する。なぁに、俺はノーコストでソーダアイスが10本食えるかもしれないんだ。途中で食えなくなっても俺には何のコストもない。最悪その辺に寝っころがって暑がっている猫にでも恵んでやるさ」
「確かにソーダアイスは安いからそこまで痛手ではないけど……にしたって俺だけペナルティーってのはちょっと不公平じゃないか~? お前にも何かそういうのがあってほしいんだが」
「成功したら、明日の宿題見せてやってもいい」
「何!? それはマジか?」
「これなら、平等だろ」
「よっしゃ~、今日の夜はプライベートタイムを長くすることができそうだ」
「……既に成功すること決まってんのかい」
「今更だぜ、俺はそういう人間だって知ってるだろ」
「それで何度も玉砕したお前をいつも見てるんだけどな~」
「まあまあ、今回は違うだろうぜ」
「その言葉も100回以上聞いたぜ」
「明日は今までの俺とは違うから、心配ご無用だ」
「それも100回以上聞いた」
「人間ってのは、常に成長を続ける生き物でな――」
「それも100回以上――ってキリがねぇな。少しは言い回し変えてこいや。同じネタを繰り返すだけでは、このお笑いブームの世の中を生きてはいけないぞ」
「いや、別にお笑いの道は目指してないって。しょうがないだろ~、お前とはずっと昔から一緒なんだし、もう言い回しのストックだって空さ」
「まあ分からなくもないが……そこから捻り出すのがお前の真骨頂じゃないのか」
「ぐっ……痛いところを…………俺、プレッシャーに弱いタイプだから」
「さっきの自信は何処に行ってしまったんだよ」
「自信は何処かへ行ったさ」
「俺はそんなことを自信満々に言ってほしいんじゃねぇんだが」
「でも、今のは新しかっただろ?」
「新しいかもしれんが、いささか不愉快だ。謝れ」
「それはすまない、謝る」
「……まあ、お前に期待するのを止めた方がいいってことも分かってはいるんだけどよ~」
「……さらっとグサリと刺さること言うよなお前」
「それほどでも」
「いや、誉めてないって。どう考えたって分かるだろ」
「そのまま答えてもつまらないじゃないか」
「そんなところに面白さは求めないって」
「そうか。それはすまない」