忘れない夏の日々(3)
――秋。
綺麗に衣替えをし終わった山道の中、玖美子を背中に乗せてゆっくりとバイクで走った。そして、絵玖も気に入っていた見晴らしの良い場所で二人でのんびりと時間を過ごす。
そこに行く度に、玖美子には絵玖のことを話してあげた。そして、絵玖に負けないくらいの可愛い女の子になるように言った。その度に、玖美子は「うん」と笑顔で応えてくれた。――絵玖、このままいけば、玖美子はお前に負けないくらいの良い女になるぞ。
――冬。
降り積もった雪を、時間のある時に二人でせっせと側溝に流していく。そして、冷たくなった体を温めるため、仲良く二人でお風呂に入る。「極楽~♪」と言いながら気持ち良さそうに湯船に浸かる姿は、絵玖が川辺に足を浸している時の姿にとても似ていた。やはり玖美子は、絵玖の可愛いところを受け継いでいるんだな。
――春。
休暇をもらい、亮や佑香たちと一緒に花見をした。もちろん玖美子も一緒だ。最初こそおっかなびっくりだったけど、二人の良さに気付いたようで、帰る頃にはすっかり懐いて離れようとしなくなっていた。
初対面の人に少々抵抗を持っているところは、俺に似てしまったのだろうか? ――小学校に入るまでには、克服させておきたいものだ。
――夏。
またこの季節が巡ってきた。毎年恒例、玖美子を連れて日向村を訪れた。
自然の豊かさは未だ健在。亮のお父さんとお母さんは今も元気に作物を育てている。挨拶しに行ったら、たくさんの野菜を分けてくれた。
家に戻ったら、これを使って夏野菜カレーを作ってあげよう。最近は、大分料理もできるようになってきたからな。それも、佑香や崎田さんの手解きがあったおかげだ。
絵玖が作るよりも味は劣るが、それでも玖美子は美味しいと言って食べてくれる。……料理を作る楽しさってものがようやく分かってきた気がするよ。
――絵玖がいなくなって1年。
今もあの日のことは忘れない。ふとしたことで、絵玖がいた頃のことを思い出す。
その度に、玖美子に気付かれないところで、小さく溜息をついた。
……忘れようとは思わないけど、まだまだ寂しい気持ちは消えそうにないな。
……………………。
…………。
……。
――そして。
――2年。
――3年。
――4年と着実に年月は過ぎていく。
少しずつ、玖美子も母親がいないことに慣れてきたようだ。再婚、という話もたまに持ち上がったりもしたが、その度に俺は大丈夫だ、と断った。
お相手さんのことを、絵玖と比べてしまいそうだし、何より俺が、絵玖以外に考えられないって想いがあるから。玖美子には申し訳ないけど、父である俺の温もりだけで我慢してほしい。
――そうして、気付けば10年の月日が流れていた……。




