新たな日々の先に(2)
「…………やば、今からドキドキしてきたぜ」
自分で決めたこととはいえ、なかなかにドキドキが止まらないな。もちろん、言うのが嫌とか、そういう意味でのドキドキではない。ただやっぱり、そういう台詞に対する免疫が少ないんだろう。そりゃそうだ、絵玖以外の女子には見向きもしてこなかったんだし……絵玖に対してしか、好きとかそういう言葉は言わなかったからな。
そんな絵玖に言うことにこんなにドキドキしてるんだから、他の人だったら心臓が飛び出してどっかに逃げてるだろう。
大丈夫だ俺、この台詞を言うのはもう少し後だ。まだ時間はある、それまでに精神状態を作っておこうじゃないか。
とりあえずは、絵玖の可愛らしい顔を見に行こうじゃないか。
……………………。
…………。
……。
――さあ、着いたぞ。俺はバイクから降り、絵玖の家のインターホンを押した。
ピーンポーン。
「――は~い」
中から返事が聞こえ、ドアが開けられる。出てきてくれたのは――
「あ、秀吾くん。こんにちは」
「こんにちは、崎田さん」
絵玖を常に見守ってくれてた崎田さんだ。今もそれは変わらない。四年前と全く変わらない柔らかな口調で俺を出迎えてくれた。
「今日もわざわざ来てくれてありがとうございます」
「いえ、俺が会いたくて来てますから。それに、1時間くらいしかかかりませんから、全然平気ですよ」
「ふふ、今日も爽やかですね」
「褒めても何も出ないですよ?」
「いえ、何も見返りは求めていません。本当にそう思ったから、言ったんですよ」
「……本当に何かお返ししたい衝動に駆られてしまいますね」
「ふふ、元気な姿を見せてくれてるだけで十分ですよ」
そう言って柔らかな笑み。
「今日は平日ですから、お母さんは仕事ですか?」
「ええ、そうですね。でも定時に上がれるとのことでしたので、6時くらいには帰宅なさると思います」
「それは何よりです」
「秀吾くんも、来年には社会人ですね」
「そうですね。月日が経つのは早いもので」
「でも、日向村に居た時よりも、顔つきは随分と大人びてきていますね。目的意識は高いように見えます」
「そ、そうですか?」
「はい。良い社員になりそうな気がします」
「今日は、いつも以上に褒めますね、崎田さん」
「さっきも言った通り、思ったことを言っているだけですから」
「……ありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
「絵玖は、家にいるんですか?」
「今、畑の方で野菜の収穫をしてるところです。良いトマトができた~って喜んでました」
「畑の方ですね。じゃあ、ちょっと行ってきます」
「はい、中で飲み物用意して待っていますね」
「あ~、ありがとうございます」
俺は、絵玖の家の裏にある畑へと向かう。
…………。




