退院祝いと絵玖の胸中(13)
まだ絵玖の目は赤く腫れぼったくなっているけど、その表情は何処かスッキリしていた。
「たくさん取り乱しちゃって、すいませんでした」
「いいんだ。何も気にしなくていい」
「おかげで、随分心が楽になりました。これなら、自分の体と戦っていくことができそうです」
「忘れるなよ? 絵玖は決して一人じゃない。絵玖の体は一つしかないけど、心の中には俺がいるし、亮や佑香だっている。一人で戦ってるわけじゃないんだってこと、覚えておいてくれ」
「はい、いつも一緒……ですね」
「そういうこと」
「考えが決まったら、秀吾くんにすぐに報告しますね。他のみんなには、登校日の時にでも話そうと思っています。少し、猶予をもらってもいいですか?」
「もちろん。どんな決断をしても、俺は絵玖のために最善を尽くすことを惜しまない」
「はい。頼りにしてますよ? 秀吾くん」
「ああ、頼りにしてくれ」
お前のためなら、俺はどんなことだってやってやるよ……。
……………………。
「今日はとっても楽しかったです。また良い思い出ができました」
「俺も、久しぶりにすごく楽しかったよ、良い思い出になった」
「また明日、会いに行ってもいいですか?」
「もちろん。いつだって待ってるよ、また俺に料理をご馳走してくれ」
「はい、喜んで! 新作レシピをご馳走します」
「楽しみにしてるぞ」
「うん、じゃあ、お休みなさい。バイバイ」
「ああ、バイバイ」
絵玖は手を振りながら、踵を返して家へと向かって行った。俺はその姿を、最後まで見続けていた。
そして、また強く心に誓った。絵玖のために、全力を尽くすことを…………。
――それからしばらくは、以前と変わらぬ日々を送った。
朝は絵玖が来て、朝食を一緒に食べ、昼前から気のみ気のままで遊びに行く。二人で遊ぶ時もあれば、亮や佑香を誘って一緒に遊ぶ時も……時には、畑仕事や村の人たちから応援を頼まれ、手伝いに行ったり……とにかく、毎日楽しい日々を送っていた。
何もなければ、基本的には絵玖と同じ時間を共有した。絵玖がそれを望んでいたし、俺もそれを望んでいたから。
言ってしまえば、ほぼ同棲のような生活だな。……この時間がずーっと続けばどれだけ嬉しいことか、そんなことを考える時もあった。でも、そんな時間程あっという間に過ぎていくもので……気付けば、夏休みの登校日に近付きつつあった。
絵玖は言っていた、登校日くらいにその後のことを決めると。絵玖のことだから、少し早めに、結果を俺に伝えるはずだ。
……俺の予想は、間違ってはいなかった。




