退院祝いと絵玖の胸中(6)
「――もぐ、もぐ。美味しいですね~、焼き加減が絶妙です」
「そうか? こっちの焼きトマトも美味いから、是非食べてみてくれ」
「はい、いただきます」
「これは、マジで美味いぞ。俺も最初は半信半疑だったんだが、実際食べてみるとこれが美味いのなんのって感じ。何はともあれ食ってみろ」
「ふふ、秀吾くんも相当な太鼓判ですね。楽しみです」
「ちょっと塩をかけて食べるのをおススメする」
「はぁい。……もぐもぐ、なるほど、これは美味しいです」
「だろ? 一度食ったら止められない味だろ? というわけで亮、俺にもう一つ焼きトマトプリーズ!」
「はいよ、今焼いてやる。佑香と先生もいるか?」
「うーん、食べる~」
「先生、何だか言葉が舌足らずになってきてますよ……お酒が回ってきてるんじゃ……」
「そう~? いつも子供っぽいから舌足らずだって言われてるから、気のせいだと思うよ~」
「……今、自分で子供っぽいことを認めたよな?」
「そ、そうですね。確かに、言ったような気がします……」
「そうだよ~、どうせ子供っぽいよ~だ。何処行っても年齢確認されるもんね~、しょうがないよね~、こーんな身なりじゃそう見えても仕方ないよね~」
「……さっきまで否定してた自分の容姿を全面肯定し始めたぞ」
「でもね~、嘘ついてないんだよ~? ちゃーんと大人なんだよ~? 保険証だって偽造したわけじゃないんだよ~? ……先生、疲れてきちゃったよ~」
「……先生、あたしたちの知らないところで、色々と苦労なさってるんですね」
「……………………肉~~~~~~!」
「わぁっ!? こ、今度は何ですか?」
「亮くん、肉、肉焼いて~。無性に肉を口にいれたくなってきたよ~、肉を食べさせて~」
「え、え? いいですけど、まだ網の上に肉を焼く余裕がないから、まずそっちを食べないと」
「え~? 肉ちょうだい! 肉、肉、ニク18!」
「――完全に回ってるな、これ」
「そ、そうね……」
「先生って、酔うとこんな風になるんですね」
「まあ……良いか悪いか、普段とノリはあんまり変わらないな。精神年齢が普段より少し落ちたくらいで」
「確かにそうね。……ちょっと、意外かな?」
「意外? 何がだ?」
「ほら、普段子供っぽい人って、お酒飲むと急に大人っぽくなったりする時あるじゃない?
お酒の力~みたいな。先生もひょっとしたら、お酒でそんな風になるのかな~とか思ってたから……でも、現実は違ってたわね」
「先生の特徴が色濃くなっただけだったな」
「え~? 何~? 色恋? 先生、まだ独身だよ~」
「色恋じゃないですよ、色が濃いです」
「聞く? 先生がみんなくらいの時に体験した甘酸っぱい青春の日々~。結構面白いかもしれないよ~」
「ん~、先生の青春の日々か。若干興味あるかもしれない……」
「あれ? ミャンマーが食いついてるわね」
「確かに、先生今はこんな感じだけど、学生の時は年相応だったかもしれないだろ? それに、ある属性を持つ人にとってはかなり好感度は高いはずだし」
「あ、ある属性?」
「まあ、有り体に言えば、ロリコンだな!」
「言い放ったわね……」
「隠すことのほどでもあるまい。今やロリコンは一般的に用いられる単語まで上り詰めたからな。憚るほどのことでもないはず」
「そりゃそうだけどさ、それに属してるであろう先生が横にいるのにそんなに大きな声で……」
「ん~、カシスオレンジ美味しい~」
「心配ない、お酒に夢中で聞こえてない」
「……まあ、いっか。さっき自分のことを認めてたし」
「あ、あははは……」
「じゃあ、話そうかな~。しっかり聞いててね? みんなと同じくらいの頃、先生は結構モテてね~――」
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