君のために……全てを賭けてでも……(30)
「――なるほど、それを聞いて謎が解けたよ。どおりで顔を出さなかったわけだ」
「絵玖のお母さんって、そういうところがありますからね」
「そうだね~。でも、詳しい事情は知らないけど、絵玖ちゃんのことを本当に好きなんだなって思うよ。その手助けがなかったら、秀吾くんの到着はもう少し遅れていたかもしれないもんね」
「俺よりも絵玖のお母さんのほうが、MVPだったんですよ、本当は」
「なるほどね~。……でも、勿体ないよね。あの時に顔を出してくれたら、絵玖ちゃんのお母さんを見る目は、大分変わっていたかもしれないのに」
「失礼かもしれないですけど、不器用なんでしょうね。絵玖から汲み取ったことは、全てそのまま受け取ってしまうから」
だからこそ、こうして極力絵玖を避け、視界に入らないようにしているんだ。
「何とか、できないものかな?」
「それに関してなんですが……俺、一回行動に移してみようかなって思ってます」
「行動?」
「はい。前々から、何とかできないものか、考えていたんです。だけど、なかなか良い案が浮かばなかったからそれを実行に移せなくて……でも、今回のことがあって、今やらないでいつやるんだって気持ちになりました。だから、頑張ってみようかなって思ってます」
「おお~、ついに立ち上がるんだね!?」
「はい」
「具体的には、どういうことをするの?」
「簡単なことですよ。絵玖のお母さんからは、アシストしたことは言わないでって言われてたんですけど……それを、申し訳ないけど、絵玖にバラしちゃおうと思います。そうしたら、お母さんがどれだけ絵玖のことを心配して、思っていたかが伝わってくれるんじゃないかなって」
「……そうだね。それが一番良いかもしれないね」
「後もし、それで絵玖が心を動かされたとしたら……絵玖からお母さんに、電話をしてもらおうかなっても考えてます。絵玖から電話をもらうなんて、久しくないはずですし、何より気持ちが伝わるはずです」
「絵玖ちゃんから電話か~……それが実現したら、仲直りも夢じゃないかもしれないね。それに、お母さんはすごく喜んでくれそう」
「あの二人には、普通の家族関係に戻ってほしいって思いますからね。親に甘えられないこと、親が子供に尽くしてあげられないこと、それほど辛いことはないから」
「だね。普通の関係に戻してあげたいね。それを今実現できるのは、秀吾くんしかいないと思うよ」
「はい、実現させられるように、頑張りますよ」
「ちなみに、それはいつ実行する予定?」
「明後日、病院にお見舞いに行く予定なので、その時にでも話そうかなって考えてます」
「明後日ね。じゃあ、成功したら私に報告してね? 私も手伝いたいところだけど、秀吾くんほど親密な関係とは言えないからさ」
「はい、任されました」
「うん。……他に何か聞きたいことはある?」
「……大丈夫です。色々ありがとうございました」
「ううん、お礼を言うのはこっちの方だよ。突然呼び出して、色々話を聞いてくれてありがとね。……まだ疲れもあると思うし、ゆっくり休んでね」
「はい、分かりました」
……………………。
…………。
……。
「じゃ~ね~」
先生が玄関で手を振っている。わざわざしなくてもいいんだが……俺はそれに手を振り返した。
――明後日、二人の関係を修復できるように頑張るとしよう。俺は心に強く誓った。




