君のために……全てを賭けてでも……(5)
「おーい、絵玖。今佑香から連絡あって、これから更に台風が強くなる――」
「けほ、げほ、えほぉ!」
「――っ!?」
目の前にいるのはいつもの絵玖の姿ではなく、険しい形相を浮かべ、血を吐き出す絵玖の姿だった。
また、いつもの発作か!
「げほ、えほ……はぁ、はぁ……」
絵玖の体を抱き起こす。
「待ってろ! 今注射を――」
俺は慌てて絵玖のバッグの中にある注射を探す。しかし……
「…………嘘だろ、ない?」
いくら探しても注射が見つからなかった。バッグを全て引っ繰り返してみても、それは何処にも見当たらない。
「そんな……」
「はぁ、はぁ……すいません……本当は、今日に貰いに行こうと思ってたんですけど……でも、この天気で……大分落ち着いてたから、問題ないと思っていたんですけど……はぁ、はぁ」
ひょっとして……昨日絵玖が帰る時に見せた表情はこれのことを意味していたのか?
「大丈夫、ですよ……しばらくすれば、すぐに良くなります……から……かはっ!」
すぐに良くなるって……このまま血を吐き続けたら……お前……。――!
「絵玖! それ以上しゃべらなくていい。待ってろ、今、何とかする!」
……口ではそう言ったものの、どうすればいいんだ?
ダメだ、こういう時こそ冷静になれ。頭の中を整理して、やるべき順序を把握しろ。
「絵玖、こっちに来るんだ」
俺は一先ず、絵玖をベッドの上に寝かせ、口元の血をタオルで拭き取る。
「げほ……はぁ、はぁ……」
後から後から吐き出す血に、俺は言いようのない不安を覚える。恐怖でタオルを握る手が震えてきてしまう。
……変に考えるな。次にやることに目を向けろ。
「ちょっと待っててくれ。救急車を呼ぶ」
俺はリビングの電話に走る。
…………。




