須貝絵玖登場! 転校生は元アイドル!?(5)
「――きたきたきたぁ! ついにこの時がきた!」
「何が来たんだ? 陣痛か? つわりか?」
「どっちも女の子にしか分からない痛みだから、俺にそんなものは来ない。分かるだろ? もう考えられるのは一つだけだろ」
「……そうか、動悸か」
「違うわぁ! こいつ、分かっててボケてやがるな。……あ、後で例の物渡すから楽しみにしてろよ」
「ああ、サンキューな」
「何この二人の切り替えの早さは……」
「話を戻すと――転校生だよ、転校生。このクラスの一員となる人が今日、ここに姿を現す時が来たんだよ!」
「妙に気合い入ってるな~お前」
「おうよ、何せ女の子だからな。いつもよりも念入りに髪型と歯磨きに気を遣ってきた」
「言われてみれば、いつもより髪がツンツンしてるわね」
「だろ? 相手は都会の子だから、こんな田舎でも都会らしい奴もいるんだぜってことをアピールせねばなるまい」
「都会っぽいのに田舎っぽさのあるのって、ギャップ激しくて付き合い辛くないかしらね?」
「そのギャップが女の子には好印象なんだよ。ギャップは女の子を落とすのに効果的だって、コンビニの雑誌に書いてあった」
「ギャップの使い方、絶対間違ってると思うんだけどな……」
「とにかく、俺は今テンションが上がってるぜ。――ちょっともう一回髪型整えてくるぜ、会うまでに髪型を崩すわけにはいかないぜ」
そう言うと、亮はすごいスピードで教室を出て行った。
よっぽど転校生のことを気にかけているんだな。本人には言わないけど、あの髪型は都会の深夜の町にいる男たちのような印象を受けた。
いくら都会の子だと言っても、そういう系統の男子には興味は惹かれないんじゃないだろうか。……亮が俳優とかなら話は別だけどな。
でも、そうか……。
「――みんな、転校生のことが気になってるのね」
「だな~、この教室に転校生って言葉が溢れかえってる。……まだ5人くらいしか教室にいないけど」
「やっぱり嬉しいでしょ、新しい仲間が増えるってのはさ。幼馴染は幼馴染で楽しいけど、この村とは違う息吹ってのも必要だしね」
「とても綺麗な考え方だと思います」
「お褒めの言葉ありがとうございます。――さて、待ってる間、今日の課題の復習でもしてましょうかね」
「マジかよ、こんな日でも佑香さんはお勉強ですかい?」
「こんな日だから、今の内にできることはやっておくのよ。昼休み、放課後はその時間を取れないしね」
「さすが神社の娘……」
「というわけで、ここからは自分の世界に入らせてもらいますのであしからず」
そう言うと、佑香は勉強モードの顔になり、教科書をじっくりと眺め始めた。
あんな感じで勉強することができたら、世の中の人全員偏差値60以上の大学に入学できるだろうな。俺はこういう公共施設ではあんまり集中できるタイプではないから、基本的に家で勉強するようにしている。
自分以外の誰かがいると、頭に知識がインプットされにくいからな。
――というわけで、俺はどうでもいいことを考えることでホームルームまでの時間を過ごす。
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