都会の街まで――ラブラブデート(1)
8月12日
――ピーンポーン。
どうやら到着したようだ。ガチャ。
「おはようございます、秀吾くん」
「おう、おはよう絵玖」
「あれ? …………」
「ん? 何だ?」
「いえ、何だか、いつもの秀吾くんと服装が違ってる気がしたので」
「ああ、まあちょっとな。これからすることを考えて、いつもより服に気を遣ってみたんだ。変か?」
「いえ、全然そんなことは。結構というか、かなり良いと思います。秀吾くんも、そういう格好ができたんですね」
「はは、亮に以前教えてもらったんだよ。何つうの? 都会人っぽい格好っていうのも」
実を言えば、この格好も亮に教わりながら選んで買ったものだ。亮曰く、「秀吾は正統派の格好が一番似合う」らしく、それに従って購入したらこういう感じになった。
……こういう感じがどういう感じかというと、半袖のTシャツに薄手のカーディガンを羽織り、七分のパンツを履いた格好。腕にはアクセントでアクセサリーを付けている。
「お前と一緒に歩くには、これくらいの格好をしないといけないと思ってな」
「あはは、そんな心配しなくても。普段の秀吾くんでも、十分カッコいいんですから平気ですよ」
「ありがとよ」
「今の話を聞く限り、今日は何処かにお出かけするんですか?」
「その通り、今日は絵玖が慣れ親しんだ都会の街に行こうと思う」
「あ、街ですか?」
「ああ、街だ」
理由をコンパクトにまとめると、昨日都会にいる両親から連絡があり、そろそろ日用品が切れかかっていることを伝えたら、お金を振り込んでおくから必要なものを全て買いに行ってきなさいと言われたんだ。言われてみればしばらく街にも行ってなかったし、絵玖と街に出たことも一度もなかった。
……結構楽しいんじゃね? ということだ。
「せっかく街に出るんなら、絵玖と行った方が楽しいだろうからさ。付き合ってくれるか?」
「もちろんです。あたしもしばらく行ってなかったですから、どんな風になってるのか見てみたいです」
「よし、じゃあ決まりだな。今日は街で買い物をするぞ」
「わーい! …………あ」
「ん? どうした?」
「そういえばあたし、今あんまりお小遣いを持ってないから街に行くまでの往復料金が……」
「ああ、それなら心配いらんぞ。――これを見ろ!」
俺は財布から秘密兵器を取り出した。
「あ、すごい」
「こんなこともあろうかと、上手く両親と話をして、少し大目に買い物料金をもらっておいたんだ。これだけあれば、足りなくなるってことはないだろう」
「さすが秀吾くん、策士ですね」
「両親との交渉なら得意中の得意だ。家族内では常に俺が正しい発言をする人間だからな。故に、俺の言うことには納得してくれる。その位置付けがこうして聞いてきたってわけだ」
「あたしも真似しなくちゃ……でもいいんですか? そうなると、あたし、秀吾くんに全て奢ってもらう形になってしまいますよ?」
「なぁに、そんなの気にしなくていいんだよ。二人で使うためにこのお金を得たんだ。絵玖も使って当然だろ? それに、彼女の分の料金も払ってあげるのが、スマートな男子の役目ってもんだ。違うか?」
「そうですね。ちょっと微妙なラインかもしれませんけど……」
「まあ、今回は正解ってことにしといてくれ。その代わりと言っちゃ何だが、絵玖には都会でおススメのスポットとか、そういう情報を俺に提供してくれ? 常に田舎に住んでた俺にはそういう知識がからきしないからして」
「あ、それはもちろん。あたしの知り得る限りの情報をあげますよ、任せてください」
「うむ、頼んだぞ」
「はぁい。…………うーん、どうしようかな」
「今度はどうした?」
「いえ、街に行くのだとしたら、もう少しお洒落してきたほうがよかったかなって思いまして。今日の格好はかなりラフな格好ですから。ちょっと秀吾くんに見劣りをしてしまいそうで……」
「そんなことなさそうに見えるけどな? 十分可愛らしいじゃないか」
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、せめてお化粧くらいはしておいたほうがいいかなって思いまして」
「そうか。女の子にも色々と準備があるわけだな。――よし、じゃあこうしよう…………どうしよう?」
「え、ええ!?」
「冗談だ。今から絵玖の家に行って着替えてこよう、別に時間がないわけじゃないし」
「いいんですか?」
「いいに決まってる。俺も街に行くなんて今まで一言も言ってなかったわけだし。遠慮しないでおめかししてこいよ。そしてより可愛くなった姿を俺に見せてくれ」
「ありがとうございます。秀吾くんは、もう準備万端なんですか?」
「ああ、後は家を出るだけの状態だ。……じゃあ、絵玖の家に行こうか」
「はい」
……………………。




