山菜ハンター・絵玖(5)
「よいっしょ! ……ふぅ、抜けた」
「お、いいぞ、その調子だ」
「はい」
飲み込みの良い絵玖は、ここでもそれを遺憾なく発揮してくれている。籠には着々とお目当ての品が溜まってきていた。
「このペースでいけば、天ぷらが死ぬほど食えるかもしれないな」
「そうですね。山積みの天ぷらが出来上がるかもしれませんね」
「そうなったら、腐らせずに保存する方法を考えないといけないな」
「あ、お裾分けするってことはしないんですか?」
「何を言うか。絵玖が俺のために作ってくれる予定のものだぞ? 誰かにあげるなんて言語道断だ!」
「そ、そんなに口調を強くしていうことの程でも……」
「オークションにかけたらそこそこの値はつくと睨んでいる」
「いや、つきませんよ絶対に」
「何故言い切れる?」
「あたしが揚げたって証拠がどこにもないし、何より届く頃にはしなっしなになっちゃってますもん。そもそも、天ぷらをオークションにかけるなんて、聞いたこともありません」
「そうとは限らないかもしれないぞ?」
「限りますよ、絶対に」
「ちっ…………」
「舌打ち以前の問題だと思います……」
「まあ、とにかくだ。絵玖の愛情が籠ったものを残すのは俺のポリシーに反するから、全部食べ切ってみせるよ」
「ふふ、今日はフードファイターになるかもしれませんね。いっそのこと蕎麦もわんこそばにしてみますか?」
「いや、さすがにそれは……食べ過ぎで死んでしまうかもしれない。まあ絵玖の料理を食いすぎて死ぬなら本望だけど」
「冗談ですよ、まだ死んでほしくないですし。でも、たくさんたべてほしいからたくさん作りますね」
「ああ、分かった」
「――あ、フキを発見」
絵玖がターゲットに向かってとっとこ走っていく。
「えへへ、ゲット♪」
――至って元気そうにしている絵玖。その様子を見て、俺は少しほっとすることができた。いくら体調に関して気にしないようにしても、それには限界というものがある。
血を吐いて倒れた人間に、山菜採取しに行こうなんて、本来なら間違っても言っていいことではない。だけど、絵玖の前ではそれが正解なんだ。何故なら、絵玖が臨んでいることだから。




