須貝絵玖登場! 転校生は元アイドル!?(3)
――キッチンから、良い匂いが漂ってきた。
「お、ちょうどいいタイミングね」
「タイミングを取るのは比較的得意だからな」
「よろしい。秀吾、お皿貸して、それとお箸、どっちも二つずつ」
「へいへい。……ん? 二つ?」
「そう、二つ。秀吾の分と、私の分」
「何だ、お前も食うんかい」
「そう。悪い?」
「てっきり自分の家で食ってきたと思ってたんだが」
「ええ、食べてきたわよ」
「でも、ここでもしっかり朝食を摂ると」
「ええ、そうよ」
「……太らないのか? そんなに食って」
「デザートは別腹って言葉はご存知ですか?」
「存じておりますけども……え? じゃあこれはデザートなんですか? 佑香さんにとって」
「いや、朝食ですよ」
「何故今俺に別腹の話を聞かせてくれたんだよ」
「知ってるのかな~って思って」
「知ってるわ! 俺を誰だと思っている」
「田舎に住んでいるちょっと残念な五十沢くん」
「その通りではあるけど……もうちょっと響きの良い言い方っていうか何て言うか……」
「まあ、ホントのことを話すと、これを秀吾の家に置いてきてって言われて、ついうっかり朝ご飯を食べかけで出てきちゃったのよ。秀吾の朝ご飯前に届けたげてった言われたから」
「別に急がんでもよかったのに……もらえるだけで感謝してるんだから……」
「そう言ってくれると思ってたけど、早く届けて喜んで欲しかったんじゃない? 家の母さん」
「良い女だな、佑香の母さんは」
「ふふ、でしょ。……ああ、言っとくけど、恋愛対象とかに含んじゃダメだからね。私って存在がいる時点で結婚してるから、家の母さん」
「…………ちっ」
「舌打ちすんな、舌打ち」
「心配すんな。佑香の母さんは狙ってないから……今のところは」
「今のところはって……未来永劫狙わないでちょうだい。父さんがかわいそうだから」
「それはつまり、俺にも勝ち目があるかもしれないってことか?」
「そういう意味じゃないわよ。年上を狙うよりも同年代の子を狙いなさいって言ってるの」
「ストライクゾーンは広いほうがいいと聞くんだけどな」
「いくら何でも広すぎるわよ。身の丈にあったストライクゾーンを設定しなさい」
「佑香はあれこれうるさいな。……俺の母さんかよ」
「放っておけないのよ、秀吾のそういうところ」
「苦労かけるね」
「自覚あんなら少しは変わろうとしてちょうだい」
「すんまそん。――腹減った、食べていいか?」
「ああ、ごめんね。いいわよ、食べて食べて。……あ、ちょうど野菜使い切っちゃったけど大丈夫だった?」
「心配ご無用。亮から野菜を譲ってもらうから、むしろ痛む前に使い切ってくれて助かった」
佑香の作ってくれたメニューは野菜オムレツとフレンチトースト、そして佑香の母さん特製の煮物。作り方次第で贅沢な気分を味わえるんだから、食材の使い方って大事だよな。
食べやすい大きさにカットして口に運ぶ。




