プロローグ~忘れられない日々の始まり~(1)
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ちゅん、ちゅんちゅん。
雀たちの合唱が耳に届いてくる。どうやら、もう朝になってしまったようだ。
「……あち~」
パンツ一丁で寝ているというのに、体は汗でベットベトになっていた。……気持ち悪い。
「シャワーで流すか~、時間は……まあ、何とかなるだろう」
学校までは10分とかからない場所にある。走れば5分以内、始業までに着いていればいいし、無問題だ。そうと決まれば――。
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「はあ……ここ最近ずっとシャワー浴びてる気がする」
朝に一回、夕方に一回で計二回。多いときは朝、昼、夜の計三回なんて日も。それもそのはず、今年の夏は最高に暑いんだ。こんなド田舎だから、日当たりは最高によろしく、おまけに日差しを遮るものがほとんどない。
紫外線が顔パス状態で降り注いできてるようなもんだ。別に夏は嫌いじゃないが、この暑さはさすがに体に応える。
こまめに水分補給しないと、脱水症状で倒れちまうぜ。
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「――ふう、さっぱり」
さて、次は……朝ご飯だな。確か冷蔵庫にゆで卵が余っていたはず。……食パンもあるみたいだから、タマゴサンドにして食べよう。そうと決まれば、早速準備を。
……あ、別に俺は孤児ってわけではない。ちゃんと両親いるし、至って元気に過ごしている。ただ、今は隣町に住んでいるから、俺は一人暮らしというスタイルで生活を送っているんだ。
どうしてかって? ……実はこの日向村は、過疎化の影響で来年の春に廃村になる予定なんだ。
10年程前に近代化が進んだ隣町が完成し、その年から徐々に一人立ちする若者や引っ越しする家族が増え、ついに昨年には人口が50人を切った。これでは村として成り立たないと見なされ、廃村が決定、日向村に住む人たちは来年までに隣町に住まうことを余儀なくされた。
ずっとこの村で育ってきた人もいるから、反対の声もたくさんあっただろうが、100人に満たない住民の意見が通ることは難しかったようでしぶしぶ受諾することしかできなかったようだ。
俺ももちろん、反対側の人間だ。隣町に魅力を感じていないわけではないけれど、この村はこの村で良いところがたくさんあるし、向こうでは味わえない大自然を満喫することができるからな。
ただまあ、決まってしまったことを俺の一存で変更することはできないから……受け入れるしかあるまい。向こうの生活に慣れるには時間がかかりそうだが、住んで都にするしかないな。