愛するための決意(4)
「秀吾くんも、薄々感じてると思うけど……絵玖の寿命はもう、そこまで長くはないって、お医者さんには言われてるわ。私が聞かされた寿命は――半年から一年くらいだって」
「…………だから、絵玖は病院に入院しなくてもよかったんですか」
「そういうことになるわね。軽度の病気なら、しばらく入院すれば完治するからね。だけど、絵玖の場合はそうじゃない。通院しても、治らない。だからこそ……自分の納得する生き方をさせたい……お医者さんが、退院の許可を出してくれたのよ」
「絵玖をこの村に連れてきた理由に、それは含まれているんですね?」
「そうね、絵玖が自分の意志で行ってみたいと言った場所だから。いくら体のことが心配でも、その想いを無下にすることはできなかったわ。でも、本当にこの村は環境が良くて、絵玖も向こうにいた時よりも元気になってる気がするわ。何より、秀吾くんが支えてくれているものね」
「本人がそう思ってくれてるなら、俺は最高に嬉しいですね」
「一つ、忠告しておくわね。絵玖の寿命に関しては、あくまで可能性の一つだってことを覚えておいて。絵玖のかかった病気は、現在も解明されていない病気だから……場合によっては、それよりもずっと長く生きられる可能性だってあるはずだから。絵玖の生きたいって気持ちが強ければそれこそ……何年、何十年と生きていけるかもしれないわ」
「そうですね、病は気からというくらいですもんね」
治らないと言われた病気でも、心持ち次第で治ることがあるんだ。逆にそれをバネにしてやるんだ! くらいの気持ちでちょうどいいかもしれない。
「教えてくれて、ありがとうございます。心の中にあったしこりが取れたような気がします」
「本当に、秀吾くんには苦労をかけるわね。絵玖のような普通ではない子の彼氏になってくれて」
「いえ、苦労だなんてこれっぽっちも思ったことはないですよ。だって、彼女って時点で、普通という存在ではないんですから。絵玖は俺にとって、すごく特別な存在ですよ」
「……そういう言葉をサラっと言えちゃうから、すごいわよね。本当に秀吾くんなら、絵玖のことを病気から救ってくれそうね」
「救ってやれるよう、精一杯頑張るつもりです。なので、何かあったらアドバイスを頂けたら嬉しいです」
「もちろんいいわよ。私だって、絵玖のことは大事な娘だって思っているから」
「――まだ、関係はあのままなんですか?」
「そうね。まあ、そう簡単には変わらないわよ。今に始まったことではないから」
「……前にも聞きましたけど、関係を直すことは難しいですか?」
「一筋縄ではいかないと思うわね。私がいることで絵玖を不幸せにしてしまうのは、あまりにも悲しいから。だったら、私が我慢をして、絵玖に幸せになってほしいもの」
「そうですか……」
「ごめんなさいね、こんなダメ親で」
「いえ、そんな風には思いませんよ。良いお母さんだと、俺は思います」
俺がお母さんと同じ立場であれば、あまりの悲しさに胸が押し潰されているだろうから。自分の愛娘に煙たがられることほど、キツいものはないはず。
だけどお母さんは、それにずっと前から耐えているんだ。娘の本当の幸せを願っているからこそ、できることだと俺は思う。
「だから、私の分まで絵玖と触れ合ってちょうだいね。頼むわ」
「……はい、分かりました」
「他に聞きたいことはあるかしら?」
「そうですね。――じゃあ、ちょっと指向を変えて、絵玖の昔のエピソードとかを聞かせてほしいです」
「ええ、いいわよ」
――それからしばらく、絵玖のお母さんと絵玖の話をした。絵玖の話をしているお母さんの表情はとても楽しそうで、話しているだけでも、絵玖への愛情がこちらに伝わってき
た。だからこそ、今のような関係が不憫で仕方ないと思えてしまう。
――できるのであれば、こちらの関係も修復したいと、俺は思った。
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「――今日は、わざわざ来てくれてありがとうございました」
「いいのよ、私も久しぶりに色々喋れて楽しかったわ。普段は忙しくてこういう機会もあまりなかったから……」
「多忙なんですね」
「良くも悪くもね、これでもお偉いさんだから」
「そうですね」
「――じゃあ、秀吾くん。絵玖のこと、よろしく頼んだわ。何かあったら、いつでも連絡してくれていいから」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ、またね~」
お母さんは車に乗り込み、手を振りながらその場を走り去った。
今日、話を聞いたおかげで、絵玖の全てを聞けたような気がする。昔のこと、絵玖の寿命のこと。それら一つ一つは、今後に必ず役立ってくるはずだ。
聞きたくないと、心が拒んでいる内容もあった。だけど、それを拒み続けていては先には進めない。絵玖を本当に幸せにしてやるには、これくらいのことは当然だ。
……絵玖、俺はお前にとって最高の人になれるよう、これからも努力していくよ。見ててくれよな。――よし、頑張れ、俺!
俺は心の中で自分にエールを送ったのだった。
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