愛するための決意(2)
「どうぞ」
「ありがとう。……秀吾くんは、今一人暮らし、なんだっけ?」
「はい。両親は都会の方に住んでいますので。二人は職場は向こうにありますし、俺はこっちで学校がありますから」
「なるほど。……楽しい? 一人暮らしは?」
「それ程でもないですね。どれだけ炊事、洗濯、家事が難しいかを痛感しました。叶うなら、両親に戻ってきてほしいって思う時もあります」
「そっか。でも、この生活はいざっていう時に活かせると思うから、頑張ってみるのもアリって言えばアリかもしれないからさ。もうちょっと我慢してみるといいかもしれないわよ」
「そうですね。さすがに毎日不味い料理は食いたくないので、よく絵玖には助けてもらってますよ」
「あ、そうなんだ。大丈夫? あの子の料理、ちゃんと口に合ってる?」
「それはもちろん。ナイスマッチングでいつも舌が溶けそうですよ」
「ふふ。であれば私は満足だわ。あの子も美味しいって言って食べてもらえたら幸せでしょうから」
「はい。――あの、それでお母さん」
「あはは、ごめんね。本題に入りたかったわよね」
「すいません、急かしたみたいで」
「いいのいいの。気にしないで~」
「――その……俺、絵玖と付き合うことにしたんです」
「え? あの子と?」
「は、はい」
「ホントに?」
「はい」
「嘘ついてない?」
「も、もちろんです」
「嘘、すごーい! 信じられないわ!」
何やら大声でお母さんが騒ぎ出した。
「友達じゃなく恋人同士に? まあ、まあ!」
「そ、そんなに驚くことですか?」
「だって、秀吾くんみたいな良い男が彼氏になったんでしょう? 親としては最高に嬉しいことじゃないの」
「そ、そこまで喜ぶことでは……」
「そこまで喜ぶことよ。うわ~、あの子もやるわね~、一体どんな色仕掛けを使ったのかしら」
「い、色仕掛け? 絵玖はそんなことが出来る程器用では……」
「ああ、そうね。……そういうのが分かってるってことは、どうやら本当に本当みたいね」
「嘘を言うためにお母さんを呼び出せる程、俺の肝は大きくありませんよ」
「ふふ、そうね。……おめでとう、心から祝福するわ」
「じゃあ、今後も付き合わせてもらっても?」
「もちろんいいわよ。むしろ絵玖を見捨てないであげてね? あの子のためにもさ」
「も、もちろんです。というか、どっちかと言うと見捨てられるのは俺の方で……」
「それは有り得ないわ。秀吾くんは良い男だから」
「……今日はやたら良い男を連呼してくれますね。お母さん」
「本当のことは本当って言うのが私のポリシーだから」
「際ですか……とにかく、ありがとうございます。そう言ってくれると、すごく嬉しいです」
「いえいえ、こっちこそ。絵玖みたいな子と付き合ってくれるなんて……結婚式は是非呼んでちょうだいね?」
「も、もうその段階まで進んじゃいますか?」
「え? 早い?」
「だって、まだ俺たちは学生で……」
「若い頃の無茶はしておいたほうがいいって言わない?」
「いや、聞いたことはありますけど、さすがにそれはリスキーなのでは……」
「それくらいが人生って楽しくなるんじゃないかしら? 物事を行うなら早い方がいいじゃない?」
「……でも、さすがにまだ……そう言ってくれるのは本当に嬉しいんですけども」
「ふふ、冗談よ、冗談。そんなすぐに結婚してなんて言わないから。秀吾くんはからかうと面白いわね~」
「じょ、冗談だったんですよね? ……………………よかった」
「素直よね、秀吾くんは」
「単に田舎者なだけですよ」
「いいじゃない。何回も言っちゃうけど、そういう素直な子、私は大好きよ」
「何度もありがとうございます」
「――絵玖のこと、よろしく頼むわね」
「はい」