クラスメイトたちとの戯れ(15)
――家にもうすぐ到着する、という時だった。
「……げほ、げほ」
「ん? 絵玖?」
「すい、ません…………また、前と同じ、発作が……げほっ!」
「絵玖!」
絵玖はその場に蹲り、ペタっと座り込んでしまった。そして――前と同じように。
「げほ、げほ……!」
道路の脇の草原に、たくさんの血を吐き出した。
「…………っ!」
「すい、ません……最近は、調子が良かったんですけど……げほっ」
「そんなことはいい。それより、薬はあるか? 俺が注射してやるよ」
「あり、がとうございます……はぁ、はぁ……あたしの、ポーチの中に、入ってますから、それを、使ってください……」
「分かった。待ってろ」
俺は絵玖のポーチの中を探り、前回に使用した薬を探し出す。……あった、これだ。
「今、楽にしてやるからな」
「はい……お願いします……げほ、げほ……」
尚も血を吐き出し続ける絵玖を横目に見ながらも、俺は目の前の
注射に意識を集中させる。……一度経験しているにも関わらず、手が震えてきてしまう。
落ち着け、俺。大丈夫だ、冷静になれ……自分に言い聞かせ、注射針のストッパーを外す。
「はぁ、はぁ、はぁ…………ん、はぁ、はぁ……」
「じゃあ、注射するぞ」
「はぁ、はぁ…………はい」
俺は絵玖の腕に、注射針を刺した。そして、薬を注入していく。
……………………。
「ありがとう、ございます……」
「いいんだ、気にしなくて」
「でも、驚かせちゃいましたよね……」
「そういうものだろ、発作っていうのは……しばらく、ここで休憩しよう」
「すいません」
「いいんだって。とりあえず、治まってきてるなら一安心だ」
そう、絵玖が無事なら、俺はそれでいい。
「……はあ」
「どう、したんですか? 大きな溜息をついて……」
「いや、俺が絵玖を守るって言ってるのにも関わらず、俺は今、ただ慌てるだけでほとんど何もできなかったなって思って……自分の無力さに落胆してるんだ」
「落胆、だなんて、そんな必要は全然ないですよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、どうしても歯痒くて……」
「あたしは、こうして秀吾くんが横にいてくれるだけで落ち着けるんですよ。いつもなら苦しい発作も、今日は秀吾くんが横にいてくれるからそんなに苦でもありませんし」
「……そうか?」
「そうです。だから、元気になってください。秀吾くんが悲しむ姿は、あたしはあまり好きじゃないから」
「――そうだよな。俺が絵玖に元気を与えなくちゃいけないのに、俺がテンション低かったらダメだよな」
「はい、それでいいんです。心配しなくても、秀吾くんは十分あたしのために役立ってくれてますから」
そう言うと、絵玖は立ち上がった。
「絵玖、大丈夫なのか?」
「大分良くなってきたので。ここで長時間休むのはちょっと苦しいので……秀吾くんの家までもう少しだし、そこで休ませてもらえたらなーって思ったので」
「そ、そうだな。後ちょっとで俺の家だもんな。いいぞ、全然休んで行ってくれ」
「ふふ、そう言ってくれると思ってました。……けほ、じゃあ、行きましょう」
「ゆっくり、行こうな」
「はい」
――その後絵玖は俺の家で休み、いつもと変わらぬ笑顔を見せてくれた。だけど、赤黒い血を吐き出した様子は、俺の頭からしばらく離れなかった。
あの光景は、いつになっても慣れそうにない。
………………………。
――俺の中で、一つの決心がついたのだった。
それは――。