クラスメイトたちとの戯れ(4)
「ずーっと続くと思ってたから、まだ感覚が持てないんだよな。お前たちと会えなくなるかもしれない生活っていうのが」
「俺も同じだぞ? でも、回数が少なくなるだけで、スケジュール合わせればいつでも会えるだろ」
「それはそうだが……何か、違うじゃんか? 今は電話しなくても会えてるわけだから……徒歩何分とかで会えないっていうのは俺にとっては違和感なわけよ」
「言わんとしてることはすごく分かる」
「だろう? それって、結構寂しいって思わないか?」
「思うよ、すごく。でもまあ、しょうがないことと割り切るしかないんだよな。俺たちがそれを頑なに拒んだとしても、来年の春頃には、この村は廃村になるんだし……」
「そうだよな……運命なのかな? これも」
「かもしれないな。だけど、今も言ったけど、会えなくなるわけじゃないんだ。それぞれがそれぞれの道を歩んだ後に、また同じような生活に戻るってこともあるかもしれないだろう?」
「確かに、なくはないかもしれないな」
「例え環境が変わっても、俺たちが幼馴染だっていう事実は消えたりしないさ。それが残っている限り、俺たちは問題ないと俺は思うぞ」
「はは、さすが、秀吾らしい答えが返ってきたな。こういう時のお前は男ながらカッコいいと思うぜ」
「名言を残す人として歩む人生ってのも、悪くはないかもしれないな」
「もしなるんだとしたら、オマージュじゃないオリジナルを産み出さないとな」
「確かに、そこが一番の難関だな」
「でも、お前ならそれもなれるんじゃないかって思うけどな、俺は」
「……今日は随分と俺に対する評価が甘いな」
「そういう時もあるさ。それに、俺は普段からお前に対してそこまで辛い評価してないと思うけどな」
「……言われればそうか」
「一目置いてるところがあるんだよ。幼馴染のお前にな」
「そりゃどうも」
「……うおおっ!? ……あー、俺もやっちまった」
「はっは、お前も今日は調子が悪いな」
「お前のが伝染したのかもな~?」
「俺のせいかよ?」
「はは、冗談だよ、冗談。次に期待だ」
亮は針にエサを付け、再び水中にルアーを投げいれた。
「――あ、そう言えば秀吾よ」
「ん?」
「佑香から聞いたんだが、お前絵玖ちゃんと付き合ってるらしいな」
「ああ、少し前からそういう関係になったな」
「やっぱりか、よかったじゃんか。あんな上玉をよ」
「まあ、そうだな。俺も最初はいいのか? って思ったからよ」
「でも、お前と絵玖ちゃんは合ってると俺は思うぞ。性格とか、そういうのが合いそうだもんな。別にパッと見違和感もないし」
「お、そうか?」
「ああ。――喧嘩とかしないで、仲良くやれや。末永くお幸せにな」
「ああ、サンキュー。……お前、絵玖のことは狙ったりしたのか? 今だから聞いてみたいんだが」
「うーん……最初の頃と気持ちは同じだな。目の保養って感じだ。絵玖ちゃんはかなり可愛いとは思ってたけど、でも付き合いたい、っては思わなかったな。何というか、俺とはタイプの違う人間だからよ」
「確かに、絵玖は清楚系の方だからな」
「俺にはちょっと、むず痒い気がしたからさ。……ライバルになることもなくてよかったと思うよ」
「そうだな。それが原因で犬猿の仲……なんてなったら嫌だったからな」
「はっは、さすがにそれはないだろ。いくら恋のライバルになっても、そこまでひどいことにはならなかったと思うぜ。あ~負けたな~くらいで。憎しみで殺すとか、そんなことは考えないだろう」
「そうか? 恋は盲目って言うからよ、幼馴染だろうと、殺してでも奪い取ってやるみたいな……」
「ないって。言い方悪いと思うが、人口の半分は女なんだぜ? ここでダメでもまだまだチャンスはあるんだぜ?」
「うーむ、そう考えるとそうか……でも、結果的にお前がライバルにならなくてよかったと思ってるよ。多分本気出したお前には俺は勝てなかっただろうから」
「いや、そうでもないと思うぞ。俺の接し方は好き嫌い分かれるだろうし、お前のほうが手堅いと思うけどな」
「でも、人見知りが発動する」
「それは気合いで何とかするしかないだろう」
「……マジで便利な言葉だよな、気合いって」
「コストパフォーマンスは高いと思うな。……付き合い始めても、やっぱりそういうのは変わるもんじゃないのか?」
「うーん、前より明るくはなったと思うけどな、お互いに。でも、人見知りが治ったかって言われると……まだ村から出てないし、人と出会わないから変わってないと思う」
「何だよ? 都会に遊びに行ったりしないのか?」
「今はまだな。絵玖にこの村の面白さを伝える方を優先してるから。もう少ししたら、都会のスポットを案内してもらおうと考えてるところだ」
「順を追ってってわけか。まあ都会は来年になれば嫌でも行かないといけないもんな、それが正しい選択か」
「まあ、楽しく過ごさせてもらってるよ、おかげさまで」
「それは何よりだ。もう一度言うが、末永くお幸せにな」
「ああ」
「……にしても釣れないな。ちょっとポイント変えてみるか。俺、少し上流の方に行ってみるわ」
「そうか。何分くらいで戻ってくる?」
「30分くらいか、時間も時間だし。それでダメならあきらめるしかないだろう」
「分かった、俺はもう少しここで粘ってみる」
「OK、じゃあ幸運を祈ってるぜ」
亮は椅子と釣竿を持って上流へと歩いて行った。しばらくは一人釣りか……と思った矢先――
「あ、秀吾くーん」
「ん?」
ちっこい、先生に見えない先生がこっちに向かってやってきた。普段は教師っぽい格好してるからまだいいが、私服を着ている今日は完全に同い年くらいの学生にしか見えない。
どうして同じ人間でもこうも違ってくるんだろうな? 人間って不思議な生き物だとつくづく思うよ。