神社掃除体験!(13)
……………………。
二人で一緒の湯船に浸かる。その時、絵玖の表情は緩みっぱなしだった。
「ふふ……」
「随分笑うじゃないか、絵玖」
「そうですか?」
「ああ、さっきからずーっとその顔だ」
「えへへ、何だか、嬉しくて……たまにこういう時があるんです。自分の家にいる時も、秀吾くんとの楽しい時間を思い出すと自然と笑いたくなって」
「自宅でも? 誰もいないところで?」
「はい。……想像すると怖いかもですけど、もちろん崎田さんには聞こえないように気を付けてます」
「そうか。それだけ、俺の存在は絵玖に影響を与えているんだな」
「そういうことになりますね。――逆にあたしは、秀吾くんに影響を与えられていますか?」
「当たり前だろ? 俺はお前と付き合うようになって、普段の毎日がより楽しいものに生まれ変わったぞ。言い方が悪いが、去年の夏休みはさほど楽しくなかったと思い始めてる。お前なしじゃ、この夏休みは語れないものとなった」
「それは、嬉しいです」
「まだ夏休みは始まったばっかりだけど、今の段階で去年の夏休みの楽しさを上回ってるからな。まだまだ差を付けることになるだろう」
「ふふ、たくさん差を付けられるように頑張りますね」
「うむ、よろしく頼むぞ。…………ぎゅーっと」
「わぁ!」
後ろから絵玖の体を抱き締めてみた。
「どうしたんですか?」
「特に理由はない。ちょっと、こうしたかっただけだ」
「そうですか。……ふふ」
絵玖は再び笑みを浮かべる。
「やっぱり秀吾くんの手は暖かいです」
「お湯の温度じゃないのか? それは」
「いえ、それとは違う秀吾くんの暖かさがちゃんとあります。あたしには分かります」
「分かるのか、それはすごい」
「あたし、秀吾くんの彼女ですから。当然のことです」
「なるほど。……まあ、俺も分かるぞ。絵玖の体の暖かさは」
「本当ですか?」
「俺は絵玖の彼氏だぞ? 当然のことだ」
「あたしの返答を引用してきましたね」
「最近よく使うオマージュ戦法だな」
「秀吾くんがあたしのことをオマージュすることがあるんですね。普段はあたしがそうするのに」
「俺だって分からないことはあるからな。そういう時は人に頼らなくてはやっていけないだろ? それが今は絵玖だったんだ」
「……別にそこまで難しい質問ではなかったですよね? 今のは」
「まあな。でも、最善の解答はどうだって言われたら絵玖のを引用するのが正しいんじゃないかって思ったんだ」
「彼氏だから、ですか?」
「そう、その通り!」
「……何処かで聞いたことのある台詞です」
「はっは、意外と知ってるな。そういうネタは」
「これでも芸能界にいましたからね。多少の知識はありますよ」
「さすがだな。これからも会話にそういうのを散りばめていく予定だから」
「気付けるように頑張りますね」
「良くできたらご褒美をあげようじゃないか」
「わぁ、本当ですか?」
「まだ未定だが、何かを考えておこう」
「ふふ、絶対ですよ?」
「男に二言はない。……というわけで、今ちゃんと対応したからぎゅっとしてやろう。ほれ、もう少しこっちに近付いて」
「はぁい♪」
体を寄せた絵玖の体をもう一度ぎゅっとする。
「はぁ……幸せです」
「俺も幸せだよ」
「贅沢なことかもしれないけど、ずっとこのまま幸せでいたいですね」
「贅沢なんかじゃないさ。誰でもそれは願っていいことだぞ」
「じゃあ、あたしにも願う権利は?」
「もちろんあるさ。それに、絵玖のその願いは叶うぞ? というか、俺が叶えるから」
「ホントですか? 嬉しいです」
「任せとけ。というか、俺しかいないだろ? 絵玖の幸せを叶えるのは」
「そうですね。秀吾くんにしかできないことです」
「なら、俺が何とかするさ。心配するな、それを裏切るようなことはしないから」
「じゃあ、秀吾くんにあたしを委ねることにします」
「おお、おんぶに抱っこで来い」
「ふふ、頼もしい。……………………」
「大丈夫か? のぼせてきてないか?」
「平気です。……もうちょっと、このままでいていいですか?」
「ああ、気の済むまでどうぞ」
「ありがとうございます」
――結局その後も、イチャイチャし続けた俺たちだった。