神社掃除体験!(9)
――それから一時間程したところで。
「秀吾、絵玖ちゃーん、おやつ持ってきたから食べましょ~!」
佑香が縁側で手を振ってこちらに声をかけた。そして持ってきたであろうお盆を指差す。
「…………ん? あれは。ひょっとして…………!」
「ああ、秀吾くん。待って~」
…………。
「やはり、メロンだったか。見た目がそうだと思ったぞ」
「ふふ、しかも結構良いとこのメロンよ。お母さんが頑張ってくれてるからってこれも切
ってくれたわ」
「わぁ~、美味しそうです~」
「生唾ものだな。……じゅる」
「本当に垂れそうよ、秀吾」
「おっと……早速いただこうぜ、絵玖」
「はい。……あれ? 一個だけスイカがありますけど……これは佑香さんのですか?」
「ええ、そう。私、メロンがダメなのよ、体質的に」
「ええ? そうなんですか?」
「メロンの味は好きなんだよな?」
「味は好きなんだけど、体がね。メロンアレルギー持ちなのよ、悲しいことに」
「メロンアレルギー……」
「聞き慣れないよな? あんまり」
「はい、今日初めて聞きました」
「主な症状は、口とか耳の中が痒くなったりするんだ。ひどくなると気道が狭くなって呼吸困難に陥ることもある。意外に果物でアレルギー持ってる人は多いらしいぞ」
「へぇ~、そうなんですね」
「私のアレルギーなのに私より詳しく説明できるのね、秀吾は……」
「以前佑香にそれを教えてもらったその直後、インターネットで詳しくメロンアレルギーについて調べたからな。俺は気になったらとことん調べる男さ!」
「…………輝いてるわね、顔が」
「あはは……じゃあ、メロン好きなのに食べれないんですね? 佑香さんは」
「そうなのよ、せいぜい食べれるのはメロンパンくらいよ」
「メロン使ってませんもんね、メロンパンは」
「あれでメロンの味作ればいいじゃねぇか? きゅうりに蜂蜜かけて食べるやつ」
「……やったことあるけど、激マズよ? あれ。全然メロンの味なんかじゃなかったわ。
ただのきゅうりよ、ダダ甘の」
「試したことあんのか? お前がチャレンジするとは珍しいな」
「……あたしもあります。あれはとっても美味しくなかったです」
「絵玖もかよ? 何かのイベントか?」
「いえ、単なる興味本位で。本当なのかなーって思ったから……」
「齧った瞬間は単なるキュウリなんだけど、その後に蜂蜜が広がってきて……このまま蜂蜜の味に変わるのかなって油断した瞬間に再びキュウリが自己主張してきて……キュウリのプレッシャーが半端じゃなかったわね」
「あたしもそんな感じでした。あの食べ合わせは、ちょっといただけないって思いました」
「経験者は語るか……」
「だから、ないのよ。私がメロンを味わうことができる方法は」
「そんな食べたくても食べられない可愛そうな佑香の前で、俺たちは果たしてメロンを美
味しくいただいていいのか?」
「それは全然いいわよ。メロンじゃないけど、私だってスイカあるし。ただ黙って見てるだけだったら食べづらいかもしれないけど、決してそうじゃないから」
「マジでサンキュー。メロン食いたかったから本当に嬉しいぜ」
「はい、ありがとうございます」
「どうぞ、召し上がってください」
「じゃあ――いただきます」
早速メロンを食べやすくスプーンにすくい、口に運ぶ。……その美味しさといったらとんでもなかった。