プロローグ~忘れられない日々の始まり~(16)
キキー。
ちょうど、俺の横でその車は停止した。そして――。
「あの、すみません」
「は、はい」
窓越しに声をかけられた。もちろん、俺以外に人はいないので、俺に話しかけているんだろう。急だったので少し慌ててしまった。
「君はここに住んでいる子ですか? ちょっと教えてほしい場所があるんだけどいいかしら?」
「あ、はい。分かる範囲であれば」
変人だと思われないように、誠意を持った対応を心掛けてみる。
「ありがとう。この村にある学校の方に行きたいんだけど、行き方とかって教えていただけないかしら?」
「学校ですか? それだったらこの道をしばらく進んで、T字路を左に曲がると見えてきますよ」
「この道を進んで、T字路を左ね?」
「はい、そうです」
「そう。ありがとう、助かったわ」
「いえいえ」
そう言うと、ドライバーの人は窓を閉め、再びエンジンを蒸かして坂を上っていった。
「……………………」
「……………………」
ドライバーさんの後ろには、ちょっと痩せたおばさんっぽい人と、俺と歳の違いがなさそうな女の子が座っていた。……ちょっとしか見えなかったが、結構かわいかったように見えた。
「……ひょっとして、先生が言ってた転校生かな?」
この村の学校に用があるって言ったら、一番可能性的には有り得そうだって思うんだが……。だとしたら、さっき運転してた人は、お母さん?
……考えたところで答えはでないか。全ては明日、解決するだろう。
「……帰るか」
俺は思考を止めて、家に向かって再び歩き出した。
……………………。
「じゃあ、崎田さん。絵玖のこと、よろしくお願いします」
「はい、承知致しました」
「絵玖、それじゃあ母さん行くから。何かあったらいつでも崎田さんに言いなさい。きっと力になってくれるから。体には、十分注意してね」
「……そんなの、言われなくても分かってるよ。そんなに過保護にしてくれなくたって大丈夫だし……あたしだって、もう自分で自分のことは守ることはできるから」
「そう、だったわね。ごめんなさい――じゃあ、母さん行くわね。待ちわびてた学校生活、存分に楽しんでね。またね」
「…………」
ぶーん(車が向こうのほうに走っていく)。
「じゃあ、絵玖ちゃん。家に入りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ――まずは夕飯を済ませることにしましょう。何か食べたいものはありますか?」
「何でもいいんですか?」
「私が作れるものなら、何でも構いませんよ」
「じゃあ――グラタンが食べたいな」
「分かりました。腕によりをかけて作らせてもらいます。その間、絵玖ちゃんはお部屋で自由に過ごしててください。完成したら呼びますので」
「うん、分かりました」
……………………。
…………。
……。