神社掃除体験!(3)
「二人には、廊下の水拭きをお願いしたいの……普通の家の水拭きであればさほど時間がかからず終わるけど、この広い廊下においてはそうはいかないからさ」
「本来なら、ここは俺が一人で担当するはずだったんだろ?」
「そうね。でも絵玖ちゃんが来てくれたから、半分の負担で済むわよ」
「やはり来てもらって正解だったな」
「私は境内の掃除をしてるから、何かあれば言ってちょうだい。まあ、水拭きに難しいことはないでしょうけど……休憩は適当にとっていいから。自分たちのペースでやってくれ
て構わないわ」
「分かりました」
「お水はこれを使って。お米のとぎ汁」
「お米のとぎ汁?」
「米のとぎ汁には油分が含まれていて、それを使うとワックスと同じ効果があるから、これで拭けばピカピカになるんだ」
「なるほど……初めて知りました」
「俺も最初は知らんかったよ。佑香の家で掃除をさせてもらった時に初めて知ったんだ」
「豆知識が豊富なのは秀吾だけじゃないってことよ。……私も両親の受け売りだけどね」
「そんなもんだろう。人間は他人を見て成長していく生き物だからな」
「また無駄に深いことをつぶやいたわね」
「無駄とは失礼な、深いだけにしなさい」
「はいはい、すいませんね。……じゃあ、ここの掃除をお願いするわね。今雑巾持ってくるから。もし早く終わったら、私が終わって戻ってくるまで待っててちょうだい」
「了解した」
「はい、頑張ります」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
……………………。
「ん、しょ……」
二人してとっとこフローリングの上に雑巾を走らせる。恐るべきは米のとぎ汁、一度上から拭いただけで作りたてのような輝きを見せる。
これを一番始めに試した人は本当にグッジョブと言うべきだろう。今は掃除機という便利なアイテムがあるが、たまにはこうして人力で綺麗にしていくのも悪くない。こっちのほうが、綺麗になっていく時の喜びは大きいしな。
「ふう……」
端から端まで一列の水拭きを終え、額に浮き出た汗を手で拭う。いやしかし、暑いな。そりゃそうか、日の照ってる縁側を水拭きしながらダッシュしているんだから。
汗をかかないようがおかしい。夕方になれば最高に涼しいポイントなんだが、今は最高に暑いポイントになっている。雲泥の差とは正にこのことか。
「暑いですね~」
絵玖も同じように額を拭っている。
「かんかん照りって、このことを言うんでしょうね」
「違いない。たまに風が吹いてくれるのがせめてもの救いだな」
「はい。でも……悪い気分じゃないです。夏だな~って感じがして」
「そうか?」
……分かっているとは思うが、二人とも水拭きをしながら会話をしているからして……手は休めてないからね?
「はい。……あたし、夏が好きですから。夏が一番お気に入りの季節です」
「へぇ~、何か理由があるのか?」
「そうですね~。明確な理由はないんですけど、夏は楽しいことがたくさんあるからでしょうか。……すいません、ふわふわした解答で」
「いや、理由なんてそんなものだろう。言いたいことは分かるよ、夏は面白いイベント盛りだくさんだもんな。花火とか海水浴とか……パッとそういうのが挙げれるのは夏だよな」
「はい。それがあるから、この暑さも我慢することができます」
「暑いのは、そんなに得意じゃないんだな」
「さっきの発言と矛盾してるかもしれませんけどね。気分は悪くないんですけど、体質的に暑いのは苦手なほうでして」
「なるほど。体質と苦手は似て非なるものだからな。猫は好きだけど猫アレルギーみたいな感じか」
「はい。どうしても、バテちゃうんですよね。暑すぎると」
「……今は大丈夫か? 体調崩さない程度に加減するんだぞ」
「はい、それは問題ありません」
「いつ休憩をとってもいいと言ってるからな、疲れてきたら無理せず休むようにしよう」
まだ佑香は、絵玖の体のことを分かっていないからな。それについて触れないところを見ると、佑香にそのことは伝えたくないんだろう。