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たまには勉学に励んでる姿を見せるのもいいじゃないか?(4)


「……なあ絵玖、お前本当にゲームやったこと初めてなのか?」

「はい、そうですよ」


「のわりには、随分熟練者のようなコントローラー捌きをしてるように見えるのだが……」

「見えるだけですよ、実際秀吾くんのほうが勝ってるじゃないですか」


「いや、でもかなりギリギリ……俺、こんなに追い込まれたことはほとんどないんだぞ、このゲームで」


 今やっているのはレースゲームなんだが……一度試しで走ってみたところから……絵玖が覚醒した。飲み込みが早いとは思ってたが、今回もそれが遺憾なく発揮されているってことなのか?


「おそるべし、須貝絵玖」

「あはは。でも、一回くらいは勝ちたいですね」


「いや、これは集中してやらんと、負けてしまうぞ……」

「じゃあ、次はこのコースで遊びましょう。コース名が可愛らしいです」


「おお、ここか……」


 絵玖が選んだのは、コースの中でも一、二を争う難易度の高いコースだった。亮や佑香であれば俺の圧勝で終わる可能性がすげぇ高いはずだが、絵玖に関しては……圧勝できるとは思えない。それこそ、ミスをしたら……俺が逆に追い込まれる危険がある。


「いいのか? 難しいコースだぞ、ここ」

「全部のコースを走ってみたいと思ってるので、全然OKです」


「そうか。……スーハー」

「ど、どうして深呼吸してるんですか?」


「いや、本気を出さなければ負けかねないからな。熟練プレイヤーとしては、今日始めたばかりのプレイヤーに負けることは許されないのだよ」

「そ、そういうものなんですか?」


「そうじゃないかと俺は思っている、個人的に」

「大丈夫ですよ、きっと秀吾くんの圧勝でしょうから」


「そうやって油断させ、こっそり勝とうという作戦か? その作戦には乗らんぞ、須貝絵玖」

「な、何であたし、悪者みたいになってるんでしょうか……」


「いざ勝負だ! 須貝絵玖!」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 ……………………。


「…………」

「あ、あはは……」

「ぐおお……ま、まさか、この俺が……初めてゲームに触れた者に……負けて、しまう、

とは……がく」


「しゅ、秀吾くん~!?」

「――てのは冗談で、いやぁ~負けてしまった。このコースで負けたのはマジで久しぶりだよ。絵玖のドライビングテクニックは半端じゃないな」


 途中までは俺がリードしていた。しかし、終盤に、俺が操作ミスでコースから外れ、最高速がダウンしてしまい、絵玖に追いつかれ、越されてしまう。


最後、あきらめずに猛追はしたんだが、わずかに届かず逃げきられてしまった。初めてやったコースをほとんどミスなく走りきってしまう絵玖に、俺は軽く嫉妬心を抱いてしまった。


「今からでも全国大会出てきたらどうだ?」

「え? 全国大会があるんですか? このゲーム」


「ああ、年に一度、ゲームの祭典で行われてるんだよ。初めてやってこれなら、練習したらとんでもないことになると思うぞ。俺には分かる」

「ええ? そこまでしなくていいですよ~。気分転換が気分転換じゃなくなっちゃいます」


「そうか?」

「そうですよ~」


「何にしても、絵玖の器用さには感服だ。ファンタスティック!」

「あ、ありがとうございます」


「じゃあ、次はどのコースがいい?」

「うーん、どれにしようかな……」


 ――その後も、俺たちはレースゲームを楽しんだ。最終的に、お互いの勝率は五分五分くらいだった。それも、ほぼ全て僅差。何コースか、ショートカットができる箇所もあったが、それではフェアではないので真っ向勝負に挑んだ。


「うーん、五分五分か。俺もまだまだってことだな」

「でもさすがって感じですよ、秀吾くんの運転する車、ほとんどコースアウトしてなかったじゃないですか」


「そりゃあコース暗記してるくらいやり込んだからな。それをしてないのにスラスラ走れる絵玖は俺以上にさすがだぞ」


「いえ、そんなことは――」

「いや、そんなことある。むしろ手解きしていただきたいくらいだ。……また、勝負してくれよ。俺、頑張るからさ」


「あれ? 何だか立場が……」

「――まあ、とにかくゲームってのはこんな感じだ。どうだった? 感想は。まあ、聞くまでもないかもしれないが」


「これはドップリ浸かってしまうのもしょうがないかもしれませんね。とっても面白かったです。あたし、こんな楽しいものを今までやってこなかったんですね。ちょっと後悔してるくらいです」


「今知ることができたんだ、まだその遅れは取り戻せるさ。家に来ればいつでもやらせてやるぞ。何せ、もう夏休みの課題は片付いてるんだからな」

「そうですね。もうここからはひたすら秀吾くんと遊びほうけられるんですね」


「ああ、そうだ。明日から忙しくなるぞ~」

「そうですね。あたし、したいことを紙にメモしておきます」


「おう、それを叶えられるよう、俺は尽力しようじゃないか。――というわけで、もう一度課題終了を祝うとしよう。はい、グラス持って~?」

「はぁい」


「無事、課題が終了したことをお祝いして――乾杯!」

「かんぱぁ~い!」


 ――こうして、今日一日は過ぎていったのだった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


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