たまには勉学に励んでる姿を見せるのもいいじゃないか?(2)
――朝10時から勉強を始めて現在午後5時。……ついにここまでやってきた。
「後、この問題を解けば課題終了か?」
「はい」
「よし、絵玖。書ききってしまえ」
「はい! 書きます。…………やった、終わりました~!」
「OK! よくやったぞ!」
俺は絵玖とハイタッチを交わした。
「1週間かからずに、早々に終わらせることができたな」
「やっぱり、力を合わせるとスムーズに終わりますね」
「だな。――ラブパワーってやつか」
「ふふ、確かに全開でしたね。特に今日は」
「俺たちの愛が、課題を一瞬で葬り去ったってわけだ。…………何言ってんだろうな、俺」
「ああ、そこで現実に戻っちゃうんですか?」
「自分的には問題ないんだが、これを見てるユーザーの立場を考えるとな」
「ゆ、ユーザー?」
「まあいいか、お前らが着いてこいってことにしておこう。――てわけで、愛の力が課題早期解決を成せるようにしてくれたんだ」
「そうですね。愛の力は偉大です」
「――せっかくだから、何かでこの喜びを祝うか。……冷蔵庫のジュースとスナック菓子で乾杯しよう」
「おお~、いいですね」
「そうと決まれば、早速準備だ」
…………。
「じゃあ、宿題片づけ、お疲れ様でした~!」
「かんぱ~い」
景気よくコップをかち合わせ、祝杯を煽る。
「んっんっんっ……ぷはぁ~、うめぇ~! 一仕事終えた後の一杯は格別だ~!」
「秀吾くん、完全に発言がおっさんですね」
「おっさんにもなるさ、それだけの事を成し遂げたと思ってるからな。絵玖もどんどんジュース飲むんだぞ」
「はい、ありがとうございます。その前に……秀吾くん、お替わりをどうぞ」
「おお、悪いの絵玖太夫」
「太夫再登場ですか?」
「再登場させてみた。実際絵玖みたいな人間は太夫になる資格は十分にあると思うけどな」
「そうですか? うーん……でも、言われてもあんまり嬉しくないかもです」
「何? 何故だ?」
「あたしの勝手な想像ですけど、大夫って聞くと……吉原みたいなイメージが先行しちゃうんです。つまりその……遊女みたいって言われてるような気がして……」
「なるほどな。でも、俺だけの遊女って言われたらどうだ?」
「ただ秀吾くんだけに貢いでお金頂いてるみたいになっちゃってますよ~。それはもっとダメだと思いますよ」
「そうか、嬉しくないか。なら今後このネタは封印だな。……違うネタを考えるとしよう」
「秀吾くんは、笑いにストイックなんですね」
「うーん、半分正解だな。昔は面白いことを言いたいって願望もあっただが、今は絵玖を笑わせたいって思いのほうが強いな。やっぱり、ほら、好きな人には笑顔でいてほしいものだろ」
「考えるなんてしなくても、秀吾くんは十分そのままで面白いのに」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、そこで甘えてしまうと、これからはその面白さも下降の一歩を辿りかねないんだな。キープするためにはやはり現状を維持することが大切なんだと思う。俺がつまらなくなる→絵玖が俺を面白いと思わなくなる→俺に興味を抱かなくなる→一緒にいてつまらないと思ってしまう→会話がなくなる→別れる…………ああ、考えるだけで恐ろしい~」
「ぜ、絶対ないですから! そんなことは。考えなくていいですから」
「そうか?」
「自分で自分を追い込みすぎですよ。というか、もしその流れが現実だったとしたら、どれだけ悪い女ですか? あたし。それこそ秀吾くんに媚び諂ってただけってことになっちゃいますよ」
「それは心配ない。絵玖はそんなことをする女ではない」
「だったら、嫌いにだってなるわけないですよ。ずっと秀吾くんのことを好きなあたしでいますよ」
「……1日過ぎる度に、絵玖の良い女具合がアップしていくな」
「秀吾くんもそうですよ。日を追う毎にイケてきてますよ」
「俺が? 変態になってきてるの間違いだろ?」
「……それも否めないですけど、負けないペースでイケてきてますよ」
「マジかよ……変態でイケてるって……良い部分を完全に相殺してしまう組み合わせじゃないか」
「言い方が悪いかもしれないですけど、秀吾くんにはそれが一番似合ってますよ。変に全部カッコいいよりもそっちのほうが、あたしは取っ付きやすいですし」
「……一番好きな存在がそういうのなら、俺はそこから抜け出すことはできないな。俺はイケてる変態を貫いていくとしよう」
「ふふ、期待してますからね」
「おう。……ほれ、飲みな」
「あ、ありがとうございます」
絵玖のコップに炭酸ジュースを注ぎ入れる。小さな喉を鳴らしてこくこくと飲んでいく。