これが俗に言うバカップル(4)
「――はい、焼き上がりましたよ~」
「お、待ってました」
フォークとナイフを持って待つ俺の前に、絵玖がふっくら焼き上げたホットケーキを持ってきてくれる。
……あ、ちゃんと俺は手伝ったからね? 牛乳と卵とホットケーキミックスの入ったボウルを一生懸命混ぜさせていただきました。
そしてその後にテーブルを綺麗に拭いて、今の形に収まったんです、はい。やっぱりやーめた、ってわけではないので勘違いしないでいただけると幸いです。
「おお、こいつは美味そうだ。それにすごい良い匂い」
「秀吾くんが混ぜてくれたおかげで、ふっくら焼くことができました。きっと美味しいと思いますよ」
「だな。早速一緒に食べようぜ」
「はい」
絵玖は手を洗い、俺の向かいの席に腰を下ろした。
「では――いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
食べやすいサイズにカットし、勢いよく口に放り込む。
「もぐもぐ…………。――美味い……」
ついつい顔がにやけてしまう美味さだった。
「ふふ、よかった」
「今まで食ったホットケーキの中で一番美味いぞ」
「秀吾くんのお母さんが作ったものよりですか?」
「うん。悪いが母さんのよりも10倍美味い」
悪い母さん、今だけ悪者になってくれたまえ。
「これ、カラメルソースか? ほろ苦くてホットケーキの甘さにマッチして、最高だ」
「バターだけだと物足りないかなと思って、最後に作ってかけてみたんです。アドリブだったんでちょっと不安でしたけど、そういってもらえて嬉しいです」
「このホットケーキなら10枚は食えるな」
「あはは、さすがにそんなに食べたら胃もたれしちゃいますよ」
「でも、食える自信はあるぞ。冗談抜きで」
「ありがとうございます。……秀吾くんは美味しいって何度も言って食べてくれるから、作る側としても本望です」
「美味いものを美味いと言わないのはもったいないからな。絵玖の料理は心の底からそう思えるからさ、口に運ぶたびに言葉が込みあがってくるんだ」
「そうですか? えへへ……」
絵玖は笑いながらホットケーキを口に運ぶ。
「あむ……うん、美味しい」
「自分でも満足のいく出来か?」
「はい。80点ってところですね」
「80点? 後20点は何処にいった?」
「うーん、特に理由はないんですけど……強いていうなら、今後の自分への期待度でしょうか? 100点って言い切ってしまうと、後は下がっていく一方なので、ここを最高と設定しないでおくことで、もっと上手になろうという想いが湧いてくるかなぁと」
「故に80点か。結構自分には厳しいんですな、絵玖さんは」
「延いては自分のためですから。ちょっと厳しいくらいがちょうどいいのではないかと」
「なるほど。俺もそれには賛成だな。自分に甘々では、生きていけるものも生きていけなくなりかねないからな。進むならいばらの道ってところか」
「お、それ名言ですか?」
「みんながよく言ってると思うが、名言だな」
「頭にインプットしておかなくちゃ…………保存完了です」
「よろしい。前にも言ったが、盗める知識はドンドン盗んでいけ? それが後々活かせるようになるからな」
「はい、頑張ります」
「もぐもぐ…………うん、本当に美味いな……」
気付けば一枚食べ切ってしまっていた。