これが俗に言うバカップル(3)
――お腹を満たした後は、昨日と同じように課題に取り組む。今週中という目標を達成すべく、必死にペンを走らせる。もちろん、お互いに助け合いながら。
「…………」
「…………」
「……秀吾くん、これはどうやれば?」
「ん? どれ、見せてみな」
「はい、これなんですけど」
「ああ、これはややこしい問題だな。ちょっとコツがいるんだよ」
…………。
「――といった感じでやると……答えが出るだろ?」
「なるほど。意味の捉え方を間違わないようにしないといけないんですね」
「問題を出す側としては、とても引っかけやすいからよく多用される傾向がある。ここで覚えておけば、制作者の思惑に引っかかることはなくなるから、頭に止めておくといい」
「はい、ありがとうございます」
「これくらいお安い御用よ」
…………。
昨日と同じように、一時間置きくらいに休憩を取り、空気を入れ替えながらやっていく。集中力を保つためにも、これくらいの感覚が一番ベストだろう。
休憩の間は他愛もない話をしながら盛り上がる。友達から恋人にバージョンアップしたことで、より話の範囲が広がったから前よりも更に楽しく感じる。
お互いに零れる笑顔の量も増えた気がする。やはり関係が変わると、そういう部分も顕著に変わってくるものなんだと思い知る。
……………………。
――そんなことを繰り返し、気付けばまた4時くらいの時間が訪れる。
「ふーん、もうこんな時間か。相変わらず時間が過ぎるのが早いな。ここ最近は特に」
「それだけ、一緒にいる時間が楽しすぎるってことですね」
「全くだ。そういう所ほどたっぷり間を置いて過ぎていってほしいものだ。どうして神様はそういう感覚を俺たちに与えてくれなかったのか……」
「それだと、関係とかが長続きしないからじゃないですか? 昨日、秀吾くんが言ってたことと同じですよ、きっと。後を引くくらいがちょうどいいって」
「……俺、昨日そんなことを言ったか?」
「ええ、言いましたよ。あたしはバッチリ覚えています」
「そうか。いや、毎日のように名言を残しているからいつに言ったとかが非常に曖昧になっててな。そうか、昨日だったか……」
「今度、その名言集をコピーして譲ってください。きっと役に立つと思いますし」
「いいのか? かなり値段が張るぞ?」
「どれくらいですか?」
「そうだな。…………絵玖のお食事ギフト1年分くらいか」
「あはは、そんなのでよかったらいくらでもあげますよ。1年と言わず、一生でもいいですよ」
「何? それは本当か?」
「あたし、秀吾くんの彼女ですから。それくらいのことなら喜んでしますよ。秀吾くんが遠慮してもあたしはやっちゃいます」
「おお……だとしたら、譲らないわけにはいかないな。近いうちに譲れるよう努力してみよう」
「本当にあるんですか? 名言集」
「というか、気になった情報をまとめてるノートがあるんだ。所謂ボクノートだな」
「……何処かで聞いたことがあるようなフレーズです」
「大半がトリビア的なものだが、結構知ってるようで知らないことってあるから、暇な時に読むと結構楽しいもんだぞ。そこに幾つか名言も混ざっている」
「なるほど……」
「絵玖も作ってみるといい、絵玖は女の子だから――アタシノートだな」
「あはは、せっかくだし、やってみようかな」
「完成したら、俺にも見せてくれ。…………ちょっと小腹が空いたな。おやつでも食うか」
「そうですね。じゃあ、あたしが何か作りましょうか?」
「お、それは嬉しい。是非頼みたいな」
「ふふ、了解です。――ホットケーキでいいですか?」
「無問題だ。むしろ久しく食ってないから食いたい」
「分かりました。じゃあ、キッチンお借りしますね」
「俺もキッチンに行こう。というか、準備を手伝うよ。じっと待ってるだけだと、落ち着かないから」
「それは、共同作業ってことですか?」
「まあ、共同作業だろうな」
「そうですか。……えへへ♪」
「嬉しいのか?」
「はい。何かカップルって感じがするじゃないですか」
「確かに、そうだな」
「力を合わせて美味しいおやつを作りましょうね」
「おう、任せろ」
逆に俺が手伝うと作業速度が遅れてしまうのでは……とも思ったが、絵玖が喜んでいるならそれでもいいんだろう。絵玖のことだ、俺でも簡単にできる作業を受け渡してくれるはずだ。
…………。