これが俗に言うバカップル(2)
――そして、約束通り絵玖に朝ご飯を作ってもらい空腹を満たしていく。今日の朝ご飯は鮭のムニエルとトマト入りオムレツとコンソメスープ。どうやら絵玖は洋風料理が得意なようだ。もちろんどれもこれも絶品で、箸がどんどん進んで仕方がない。
「いつも思うが、この味を知ってしまうと普通の料理じゃ満足できなくなりそうで怖いよな。今まで美味しいと感じていたものがそうではなくなってしまう気がするよ……」
「あはは、大げさですよそれは」
「いや、そうでもないぞ。最近自分で作って食べる料理に満足できなくなってるんだ。今までは腹を満たせればいいと思っていたが、そういう考えじゃなくなってきてるみたいなんだよ。……確実に絵玖の料理が美味すぎるせいだな。……どう責任とってくれるんだ?」
「あれ? 褒められてたはずなのに、怒られてます?」
「いや、大いに関心してる。しかし妬ましくもある」
「ど、どっちなんでしょうか?」
「つまり、絵玖の料理が好きだってことだ」
「……大分飛躍したように聞こえましたけど、気のせいでしょうか?」
「俺の話が飛躍するのはいつものことだろう?」
「……肯定していいのでしょうか? ここは」
「肯定したら傷つくから」
「じゃあどうして同意を求めるように問うたんですか!?」
「うん、いいツッコミだ。絵玖も徐々に腕を上げてきてるな、良いことだ」
「秀吾くんの言葉の中にはネタがたくさん散りばめられていますからね。ツッコミもしやすいです」
「どんどん覚えていけよ。リアクションが上手い人間はちやほやされるからな。勉強しておいて損はないはずだ」
「そうなんですね」
「芸能界にいる時に、そういう風に聞かなかったのか?」
「いえ、あたしはそういうジャンルの芸能人ではなかったので。そういうのはお笑いの人とかだと思います」
「まあ、歌手には無理強いはしないのか。それを売りにしてるとしたら別なんだろうが。……やっぱり絵玖は清純派歌手のジャンルに含まれてたのか?」
「どうなんでしょう? シングルCDを売り出した時のキャッチフレーズは正統派、みたいに言われてた気がしますけど」
「シンプル・イズ・ベストってことか。……まあ、絵玖にはそれが合ってるか。実際正統に美人だからな、お前」
「あ、ありがとうございます」
「そんな美人が俺の彼女……えげつない優越感があるぜ」
「秀吾くん、えげつないの使う場所を間違ってると思いますよ」
「そうか? じゃあ狂喜的な優越感があるぜ」
「うーん、和らいだような……そうじゃないような」
「とりあえず嬉しいってことだけ伝わっていればそれでいいよ。……浮気とかするなよな?」
「しませんよ、そんなこと。浮気できるほど器用だと思います? 転校初日、あんなにびくびくしてた女が」
「自分から積極的に浮気するってことはないと思うが、押されてついOKを出す……ってことはありそうじゃないか」
「それもご心配なく。あたし、こう見えてガードは固いですから。大丈夫ですよ、あたしが好きなのは秀吾くんだけですから。秀吾くんこそ、浮気しないでくださいよ?」
「しないさ、そんなこと。浮気できるほど器用だと思うか? 絵玖が転校してきた初日、あんなにおどおどして話せなかった男が」
「自分から積極的に浮気するってことはないと思いますけど、すごい猛烈にアタックされてOKを出す……ってことはありそうじゃないですか?」
「それも心配ない。猛烈アタックを受けたことなんて今までないから。大丈夫、俺が好きなのは絵玖だけだから」
「……完全に台詞パターンがあたしと同じ感じでしたね」
「とりあえず、お互いにお互いを好きであれば、浮気の心配はないってことだな」
「そういうことです」
「……ご飯、お代わり。後スープも欲しいな」
「はい。量は? 大盛りですか?」
「もちろん、大盛りで。この美味しいおかずで大盛り以外の選択肢はない」
「ふふ、分かりました」
……………………。