プロローグ~忘れられない日々の始まり~(14)
まだまだ空は太陽の支配下で夕日は成りを潜めている。本当に最近は日が落ちるのが遅いな。
「あっち~……マジで暑いぜ。立ってるだけでも汗かいちまう」
「雨降ってないだけマシでしょ、これで湿度高かったらナメクジになっちゃうわ」
「まあな。はぁ~、せめて学校に扇風機でいいから置いてほしいぜ。あんなに暑いと授業聞く気が起きなくなっちまう」
「ミャンマーは普段から聞いてないんだけどね」
「聞いてないんじゃない。雑念を捨ててるだけだ」
「授業中はその考えが一番の雑念じゃないのか?」
「つまんねぇもんはつまんねぇんだ、しょうがないじゃないか!」
「どっかで聞いた台詞だわね」
「そんな感じで、本当に受かるのか? 推薦入試に」
「確か、後二か月くらいでしょ? 受験日まで」
「そうだな。10月の頭だからそれくらいだ。心配ないない、頭の悪い俺でも、小論文はそれなりにできるからな。それに、よっぽど悪くなければ受かるって先生も言ってるし、大丈夫だろ」
「……そういう大丈夫を不可能にするのがミャンマーの素質だから不安なのよね、私」
「おい、佑香。あんまりそういうこと言うな。落ちてほしいのか? 俺に」
「落ちてほしくないから言ってるのよ。100歩譲って普段の授業不真面目に聞いても、小論文の勉強はちゃんとしなさいよ」
「分かってるよ、俺だって進学したい気持ちはあるんだからな」
「信じてからな? 俺も。お前の真価が問われる時だ。もし、滑ったりしたら……分かってるな」
「お、おう、任しとけ! 受かったら、三人パーティーしようぜ」
「ああ」
「いいわよ。……じゃあ、今日もお疲れ。また明日ね~
」
「おう」
「じゃあな~」
…………。
「――にしても、転校生か~。楽しみだよな、秀吾」
「うーん、そうか?」
「何だ? 嬉しくないのか? 秀吾は」
「別に、そういうわけではないけども……佑香にも言ったんだが、上手く仲良くなれる自信がない」
「ああ、そういうことな」
「分かるだろ? 同性のお前ならば、俺の気持ちが」
「ああ、分かる。秀吾は決して女の子との付き合いが上手なわけじゃないしな。幼馴染の佑香とかだったら普通に接することができるけども、転校生、さらに都会で育った女の子では価値観に違いが出てしまうんじゃないか……てことだろ」
「正にそうだ」
「まあな、でも考えすぎても良くないんじゃないか? 逆にそんな風に思って接しようとすると、気を遣ってるんじゃないかコイツって疑われちまうぜ。そうなったら、余計仲良くなれるきっかけがなくなっちまうし」
「それはおっしゃる通りだが、どうしても田舎で育ったことで強まった警戒心が邪魔をする」
「警戒するのが悪いわけじゃないけど、絶対悪い奴じゃないことは確かだろ」
「うーん、でもな……」
「秀吾のそういうところは、なかなか治らないよな。昔から秀吾は、人と仲良くなるのに少し時間がかかるタイプだったし」
「そればっかりは、仕方ないだろ。慎重に確かめることは決して悪いことじゃあるまい」
「それは否定しないけどよ。でも、度を過ぎた警戒心は、時折人を遠ざけることもあるから注意しな。……佑香にも、同じこと言われたんだろ?」
「ああ、バッチリ言われた。絶対にその転校生とは仲良くするようにって」
「はっは、あいつに逆らうのは難しいからな。まあなんだ、隣町に住む前のデモンストレーションだと思えばいい。一対一で話さなきゃいけないってわけじゃないんだ。俺も佑香も手助けはしてやるからよ。田舎の良さってものを教えてやろうや」
「……善処する」