ほんとのほんと(10)
「秀吾くん、呆れちゃってますか?」
「何でだ? 全然そんなことないさ。絵玖がそうしたいって思ってしたことなら、絵玖にとってそれは最善の選択に違いない。俺は、人それぞれ違う意見があるのは当然だと思っているから、それは違うなんて咎めたりはしないよ」
「……本当に、秀吾くんは考え方が大人ですね」
「ただ、真剣に向き合うことから逃げてるだけさ。良いか悪いか、平々凡々な生活を送ってきたからな。大きな壁にぶち当たったことがなかったから。だから、別に大人でも何で
もないよ」
「それでも、それぞれの意見を尊重するってなかなかできるものではないですよ。みんな、自分の意見というものを少なからず持っているんですから。……あたしの中では一番素敵な考え方だと思います」
「ありがとよ、そう言ってくれて。……お母さんとの仲に関して、俺はとやかく言うつもりはないけれど、何か変えたいと思った時は言ってくれれば力になるから、その時は遠慮なく言ってくれ」
「はい、ありがとうございます。……ごめんなさいね、暗くなっちゃうような話ばかりをしてしまって」
「いや、むしろ聞かせてもらえてよかった。これで完璧に、須貝絵玖って女の子のことを知れたからな。辛い過去を話してくれるってことは、それだけ俺を信頼してくれてるってことだろ。男としてこれ以上嬉しいことはないさ」
「あはは、そうですね。……あたし、秀吾くんのことは相当信頼していますから」
「そうか。だとしたら、俺はその信頼を裏切らないように務めるとしよう」
「えへへ、期待してもいいですか?」
「もちろん、期待してくれ。男に二言はない」
「ありがとうございます」
「うーん……絵玖が勇気を持ってそんな話をしてくれたのなら、俺も勇気を出して大事な話をしたほうがいいんだろうか」
「? 秀吾くんも、何か秘密にしてることがあるんですか?」
「まあ、ちょっとな。本当は、まだ言うつもりはなかったんだけど、今の絵玖の話を聞いたら、言うことを後回しにする必要はないんじゃないかって思ったんだ」
「そうなんですか? ……あたしの話を聞いても秀吾くんはあたしを否定しないでくれた。あたしも、同じくらいの気持ちがありますから、どんな話でも受け入れますよ」
「……どんな話でもか?」
「はい、どんな話でもです」
……ここまで言ってくれてるんだ。もう言ってしまってもいいだろう。数日前に考えていたことの結果は、随分と早く表れそうだ。
「……先に言っておくけど、冗談ではないからな?」
「? はい、分かってます」
「……俺、絵玖のことが好きなんだ。だから……付き合ってくれないかな?」
「…………え?」
「俺と付き合ってくれないかな!?」
「い、いえ……聞こえなかったわけじゃないので、そんなに大きな声で言い直さなくても……」
「そ、そうか。とんだ勘違いをしてしまった」
「……秀吾くん、本当に言ってるんですか?」
「あ、当たり前だ。こんなこと、冗談で言えるわけないじゃないか。……い、言っておくけど、この好きは友達としての好きじゃなくて、須貝絵玖っていう女の子が好きって意味だからな。そこを勘違いしないでいただきたい」
「はい、分かってますよそれは。でも……やっぱり、聞きます。本当に、いいんですか?」
「何がだよ?」
「だってあたし、重い病気を持ってるんですよ? ほぼ治らないであろう病気を……言い方を変えれば、長生きすることはほとんど無理みたいな女なんですよ? 一緒に居れる時間だって……そんなあたしと付き合ったら、近いうちに悲しむことになるかもしれないじゃないですか? だから、いいんですかって聞いてるんです」
「何だよ……じゃあ絵玖は俺のこと……好き、じゃないのか?」
「い、いえ、そういうわけではなくて!? しゅ、秀吾くんのことは好きです、大好きです! 結構前から――あ」
絵玖は口を抑えて「しまった」とばかりに顔を赤くした。どうやら、絵玖も俺と同じ気持ちだったようだ。