ほんとのほんと(9)
「もちろん、お医者さんもはっきりと言い辛いのは百も承知です。それが原因で生きることが辛くなって、自殺をしてしまったりする人も多いようですからね。でもあたしは、その配慮がすごく気に入らないんです。これはお医者さんに限ったことではないです、ナースさん、知り合いの方……それに、お母さんも」
「…………」
「あたしは、回復に向かってますとか、体の具合は順調ですよとか、そういうことを聞きたいんじゃない。ただ、あたしはいつ死んでしまうのか、それを知りたいだけなんです。前もって教えてもらえれば、その間に何をしておこうとか、自分なりに覚悟ができるじゃないですか? でも、教えてもらえなかったら、自分がしたいと思うことを満足にできやしない……本当に回復に向かってるのなら、とっくに病院になんて通う必要なんてないじゃない……心の中でつい思ってしまうんです。あたしのためを思って言ってくれてるのでしょうけど、それは決してあたしのためにはなってない……そう言ってやりたいと思うことがいつもありました。――特に、お母さんには」
「…………」
「お母さんと話した時、そのことをお母さんから聞きましたか?」
「ああ、聞いた。絵玖はお母さんのことが嫌いなんだって、そう言ってた。……やっぱりそうなのか?」
「……正直なところ、好きじゃないです。むしろ、嫌いです。……お母さんは、今あたしが言ったことに関して一番その傾向が強かったんです。何かあるたびに絵玖の体が良くなるため、絵玖の体が良くなるためって……あたしのことなんてお構いなしにポンポン新しいことをさせて……あたしはあなたがお母さんごっこをするために生まれてきたんじゃないのに。……あたしがこの村に来たいって思った最大の理由は、お母さんから離れた生活がしたかったからなんです」
何も言わず、俺は絵玖の話に耳を傾ける。
「もちろん、ここまであたしが育ってこれたのはお母さんのおかげです。何かあれば、お金で解決してくれましたしね。でも、そんな助けがなくたってあたしは生きていける……友達だって自分で作れるし、思い出に残る生活だって作れる……それをお母さんに分からせてやりたかったんです」
「……結果は、どうだった?」
「成功半分、失敗半分って感じでしょうか。自分で判断して生活を送るのはすごく楽しいし、ワクワクしましたけど、それは逆に間違った時に誰にも教えてもらえないし、助けてもらえないってことですから。困難を一人で何とかするのがこれほど難しいものなのかって、思い知った気がします。何だかんだいって、親という存在に受けた影響というのはそう簡単に消えるものではないんですよね。生まれてきた時から、既に切れない縁が結ばれたわけですし。……でも、この村に来たことには何の後悔もありません。だって、ここに来なかったら秀吾くんと出会うことはできなかったんですから。あたしのこの有り様を見ても、何も変わらず接してくれるんですから」
「当たり前だ。俺も、絵玖に来てもらえて本当によかったと思ってるよ」
「えへへ、素直に嬉しいです。……まあ、そういう理由がありまして、あたしはお母さんがあまり好きではないんです。あたしのことを考えてくれてるのは分かるんですけど、それを考えるすぎるあまり、あたしの気持ちを考えれなくなってることに気付いてないんですよ」
「……俺が話した時、絵玖のお母さんは絵玖のことが好きだって言ってたけど」
「それは、あたしも分かってますよ。好きじゃなければ、あたしのわがままを聞いてはくれないでしょうから。この村に来ることだって、普通二つ返事でOKは出してくれないですもの。……あたし、ずる賢いから、それを利用したんです。本人も分かってると思いますけどね。でも、どうしてもしてみたかったんです。アイドルっていう肩書きに囚われず、須貝絵玖としての生活を送ることを……」
「…………」