ほんとのほんと(8)
「先に一ついいですか? あたしの体がどんな風になっているか、秀吾くんは何処まで知っていますか?」
「絵玖の母さんから聞いたのは、軽いものではないってところまでだ」
「そうですか、分かりました。……聞いた通り、あたしの病気は軽いものじゃなく、重い病気です、それもかなり深刻なレベルのものだそうですね。お医者さんには、そこまでしかあたしも教えてもらえませんでした」
「……そうか」
「ずっと昔から、あたしはお医者さんと付きっきりの日々を送っていて、どんなに隠そうとしても、それはすぐにクラスのみんなに伝わってしまいました。だから、あたしに関わるとそういう類のものが移されるんじゃないか、とか言われたりもしましたね。最初は傷つきましたけど、途中からはもうどうでもよくなってきました。だって、実際あたしもその子たちの立場だったらそうしてたと思いますしね」
「いや、そんなことはないと思うが……」
「でも、普通に接することはできないと思います。もちろん、遊びに誘われることだってほとんどありませんでした。体が悪いから、外で遊んだりしたら体調を崩してしまうんじゃないかって。そんなちょっとのことで体調を崩すのだとしたら、学校になんて登校してないんですけどね」
「……辛い日々を、送っていたんだな」
「仕方がないことです、こればっかりは。さっきも言いましたけど、もう割り切ってましたから。この件については、もう終わりにします。次に、さっきも少し話しましたが、あたしの病気について話しますね」
「ああ、頼む」
「さっきも言いましたが、あたしの病気は深刻なレベルなものなんだそうです。お医者さんが言うには、肺のほうが普通の人と比べてとても悪いんだそうです。ですから、さっき秀吾くんに打ってもらった薬などを定期的に投与しないといけないんです。……投与すると、副作用のせいかすごく喉が渇いたり、声が出なくなったりすることがあるんです。体に及ぼす効果が大きいが故のものですね。だからひょっとしたら、この後にそれが原因で声が出なくなったりするかもしれません。その時は、ごめんなさいとしか言えないです」
「いいんだそんなこと、気にするな。……じゃあ、以前風邪で休んだと言っていた日は、本当はこんな風に体調が悪かったからなのか?」
「そうですね。あながち風邪でもないかもしれませんけど、実際はあたしの病気の症状の一種ですから。その日は朝から体調が悪くて、今日みたいに血を吐いたりもしました。薬を投与してしばらくしても体調が戻らなかったので、こんな状態で学校には行けないと崎田さんに止められました。あの状態の日々は、なかなかに辛かったですね」
「…………」
「でも、初めてのことではありませんから。これでも今は結構調子が良いほうなんですよ。確かに今はこうして横になっていますけど、昔は二日に一回くらいのペースで倒れたりしていましたから。だから今、こうして毎日のように秀吾くんと遊べるのはとっても嬉しいんです。できれば、血を吐いて倒れるのは家に着いてからがよかったですけど……上手くはいかないものです」
「いや、むしろよかったよ。仮に道端で倒れたりしたら、誰も看病できなかっただろうし」
「その時は、自分で薬を投与して自分で解決します。そういうところは、結構鍛えてますから」
「そ、そうか」
「そう簡単に、死にはしませんから。……正直なところ、あたしの命は長くないんだと思います。お医者さんが教えてくれないってことは、多分そういうことなんでしょうから」
「…………」
ついに絵玖の口から放たれた「死」という言葉に、俺は嫌が応にも心に衝撃を受けざるを得なかった。