ほんとのほんと(1)
8月3日
「ZZZ……」
……………………。
「ZZZ……」
「――そーっと」
…………。
「ZZZ……」
…………。
「ZZZ……」
「――いるかな? ――あ、いた、秀吾くん発見しました」
「ZZZ……」
「今日も寝てるみたいですね。……すごく気持ちよく寝てるみたいです」
「ん、んん~……ZZZ……」
「……こうして見ると、佑香さんから聞いた通り結構顔立ちは整ってるんですね。それに、寝顔、結構かわいい……」
「ZZZ……」
「……しばらく見てたら、怒られちゃうでしょうか? ――写真に残しておきたい気もしますね」
「ZZZ……」
「それは、また今度にしましょうか。それより、起こしましょう。――秀吾くん、秀吾くん」
「ZZZ……」
「朝ですよ。絵玖が来ましたよ?」
「ん、んん~…………ZZZ……」
「意外に寝起きは悪いんですね。普通ならこれくらい呼べば起きるはずなのに……じゃあ、しょうがないですね。――それ」
「ZZZ………………………ん、んがっ!? ん、んぐぐ~!? ……はっ!?」
く、苦しい!? ダメだ、このままでは死んでしまう――。
「がはっ!? ……ああ~、死ぬかと思った……」
「あは、やっと起きてくれましたね。おはようございます、秀吾くん」
「……おお、絵玖。来てたのか? おはよう。……今、絵玖が起こしてくれたのか?」
「はい、ちょっと荒っぽかったですけど、声をかけても起きなかったので……目が覚めましたか?」
「ああ、バッチリ。……豪華客船で立食パーティに参加していて、いざ料理を食べようとした時に大津波に襲われて溺れた夢を見た」
「すごいシチュエーションの夢でしたね」
「北京ダックに手を伸ばしているところだった。……後ちょっと起こすのが遅ければ……くそ、悔やまれるぜ」
「……何か、ごめんなさい。そんなタイミングだとは思いもせず……」
「そりゃそうだ、別に謝れって言ってるわけじゃないから。その代わりに、絵玖が持ってきてくれたであろうナスの煮びたしをご馳走になるよ」
「あ、覚えてたんですね」
「俺が食べ物のことを忘れるわけがなかろう。昨日寝付く前もそれを考えて寝たんだからな」
「あはは、それを聞いたら崎田さんも喜んでくれますよ」
「伝えておいてくれ、心待ちにしていたと」
「じゃあ、食べた時の感想と共に伝えておきます。……あたしも考えてましたよ、秀吾くんのカレーを食べさせてもらえるの」
「ホントか? 嫌だな~って思ってたんじゃないのか?」
「そんなことないですよ、ホントに楽しみにしてました。だって、初めての秀吾くんのお料理ですもの、楽しみじゃないわけがありません」
「そう言われると……少し緊張してしまうぞ」
「えへへ、ちゃんと朝ご飯食べないで来ましたよ。今日の朝ご飯は秀吾くんの料理って決めてましたから」
「更なるプレッシャーが……胃がキリキリしてきた……」
「大丈夫ですよ、そんなに緊張しなくても。だって、昨日の夜ご飯、秀吾くんはそれを食べたんでしょう?」
「ああ、食ったよ」
「お味はどうでした?」
「不味くはなかった。だが、俺は不味くなかっただけで、絵玖の口に合うかは……不明だ」
「なら、大丈夫です。あたしも秀吾くんと同じような味覚ですから」
「だといいが……楽しみと緊張が混ざり合った何とも微妙な心境です……」
「あたしは、すごい楽しみです。じゃあ、下で煮びたしを温め直しておきますね。秀吾くんは着替えててください」
「ああ、分かった。――あ、ついでにカレーの置いてるガスコンロにも火を付けててくれ。……鍋の蓋は開けないままで」
「ふふ、分かりました」
絵玖はいつもよりもテンション高い感じで下に降りていった。……そんなに俺の料理を心待ちにしていたんだろうか?
今までよりも数段作り方、野菜の切り方を慎重且つ冷静にやってはみたが……それでも出来上がりの良し悪しは自分では分からない為、後は絵玖の反応だけが重要になってくる。市販のルーを使ってるからきっと味は失敗しないとは思うが……問題は見た目だな。
どう頑張っても、俺には絵玖の料理のような綺麗さは出せないからな。及第点に乗ってくれるかどうか……盛り付けをなるべく綺麗にできるようにしよう。
――私服に着替え、絵玖のいるキッチンへと向かう。
…………。