夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(14)――絵玖視点
「――ただいま~」
「あら、絵玖ちゃん、お帰りなさい」
「崎田さん、ただいま」
「今日もお疲れ様です。……あら? その袋は何ですか? 随分重たそうですけれど」
「うん。今日、クラスメイトの亮くんの家の農作業を手伝ってきたんです。そのお礼に、採れたての野菜をたくさん分けてくれて――ほら、見て」
「まあまあ! すごいですね。立派な野菜ですこと……この食材で料理を作ったらさぞ美味しくなるでしょうね」
「うん。だから今日はこの野菜で料理を作ってほしいな~。あたし、崎田さんのナスの煮びたしが食べたいです」
「煮びたしですね、分かりました。喜んで作らせてもらいますよ」
「少し多めに作ってもらってもいいですか? 明日、秀吾くんにもご馳走したいと思ってるから」
「あ、そうですか、分かりました。……こんなおばさんの料理で満足してくれるか少し不安がありますが……」
「絶対満足してくれますよ。前々から食べてみたいって言ってたから、この機会に崎田さんの料理の腕を知ってもらえたらって思って」
「でしたら、いつも以上に腕によりをかけて作らなければいけませんね。長年の料理経験をしっかり煮びたしに活かしたいと思います」
「うふふ、楽しみにしてます」
「はい。――では、野菜はこちらで保存しておきますから……袋を貸していただけますか?」
「うん、ありがとうございます。……こっちは今日秀吾くんに借りた作業着だから、あたしが自分で洗っておきますね」
「分かりました。……では、料理ができましたら呼びますのでしばらくは自由な時間を過ごしていてください」
「うん、ありがとう崎田さん」
――あたしは自室に戻った。
…………。
「ふう~」
部屋に戻るや否や、ベッドに身を放り投げる。結構な重労働で疲労はあるけれど、この疲労感に不快感はない。アイドルをやっていた時とは大違いだな~。
やっぱり好きなことをやった時と嫌いなことをやった時とではこうも違ってくるんだなって感じる。
「今日も、とっても楽しかったな~」
やっぱり、友達と……秀吾くんと一緒にいる時が、今は一番楽しい。
秀吾くんと一緒にいれたら、どんな些細なことでも楽しく思えると思う。それだけ、秀吾くんといる時の心地が良いってこと。
最近思う、あたしは秀吾くんを友達として好きなんじゃなくて、一人の男の子として好きなんじゃないかって。
理由は秀吾くんとお別れした日の後とかも、暇さえあれば秀吾くんのことを考えてるから。それに、手をつないでもらった時……すごく胸がドキドキしたから。
今までこんなことは一度もなかった。アイドルをやっていた時、仕事で男性の共演者と手をつないだことはあるけど、そんな風になったことは一度もない。
それを感じたってことは、秀吾くんに対して恋愛感情を持ってるってことだろう。
「初恋、しちゃったかな……」
秀吾くんはあたしのこと、どんな風に思ってるのかな? いつも一緒に遊んでくれるってことは、きっと嫌いってことはないと思う。
でも、女の子として見てるかと言われたら――。普段の変態トークが本当なら、そこそこ女の子として見てくれてるかもしれない。
「もし、唐突に告白とかしたら、どんな反応するのかな?」
やっぱり驚くかな? それとも意外にあっさり「いいよ」とか言ってくれるのかな?
何か秀吾くんなら、後者のほうが可能性が高い気がする。何だかんだ言っても秀吾くんは大人なところがあるから、あたしが好きだってこと、ばれちゃってるかもしれないし。
でも、もしそうだとしたら、向こうが言ってこない理由は……。考えても分かるはずもないことをひたすら考えちゃう……やっぱり、気になってるんだな。
でも……叶うのなら、付き合いたいな……。
「秀吾くん……」