夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(12)
「さあ、ここにあるものなら好きなだけ持っていってくれ」
「おお、すげぇ」
「こんなにたくさん……」
「ここにあるのは全部、商品として売り出せないものなんだよ。だから、持てるだけ持っていってくれると助かる。三山家だけでは絶対食い切れないからさ」
「分かった。じゃあたくさん持っていくぞ。……袋もらってもいいか?」
「ああ、そこにあるの適当に使ってくれ」
「ああ。――ほれ、絵玖も」
「あ、ありがとうございます」
ということで、俺は三つの袋に野菜を入れられるだけ詰め込んだ。総重量がとんでもないことになり、痛めた腰にはかなりの負担だが、食材費が浮くことを考えたらこれくらいの辛苦は乗り越えねば。
ちなみに絵玖も、全ての野菜を万遍なく二袋に詰め込んだ。
「こんだけもらっても、まだ余るんだな」
「こればっかりはしょうがないな。まあ、後で佑香の家にでも差し入れてくるさ、他の奴らのところにも。精根込めて作った野菜は、なるべくみんなには食べてほしいからよ」
「今の言葉、すごく素敵ですね。亮くんの良いところがまた一つ分かった気がします」
「お、好感度アップか~、やったね~。今日一番嬉しいかもしれないぜ」
「あんまり周りに素敵って言ってくれる奴もいないからな~」
「それは言わなくていいんだよ。……ああ、連絡してくれれば野菜の美味い食い方とか教えるから、その時は言ってくれよ。後、もしよかったらまた手伝ってくれると嬉しいんだが……」
「ああ、もちろんいいぞ。予定が合えばいつでも手伝う」
「はい、また誘ってください」
「サンキュー、じゃあ、今日はありがとな」
「おじさん、おばさんによろしく伝えといてくれよな」
「ああ、分かった」
「バイバイ、亮くん」
「ああ、バイバイ~」
……………………。
…………。
……。
「お~、イテテ……」
「大丈夫ですか? 秀吾くん」
「ああ、問題ない。これくらいの痛みに負ける俺ではない……悪いな、歩みがすごいゆっくりで」
「いいですよ。あたしも……結構重いので……」
「はは、そうか」
やっぱり女の子には、二袋でも相当応えるようだ。
「どうだった? 今日一日農作業をした感想は?」
「はい。さっきも言いましたけど、すごく楽しかったです。単純作業ではありますけど、徐々に収穫した野菜が籠に満たされていくのを見るとすごく嬉しい気持ちになりました」
「それは何よりだ。農作業のイメージが変わったか?」
「はい、ガラリと変わりました」
「また頼まれるかもしれないから、その時は手伝ってやろうぜ。こんな素敵な報酬をもらえるわけだしな」
「はい。今から何を作ってもらおうか、すごく楽しみです」
「俺は、どうしようかな……今はカレーでも作ろうかと考えている」
「あ、それは美味しそうですね」
「野菜を切って鍋に入れてルーを加える……料理が苦手な俺でもできる簡単なレシピだ」
「夏野菜カレーですね。すごく魅力的です」
「絵玖はどんなのを考えてるんだ?」
「そうですね。……あたしはナスで煮びたしを作ってもらおうかなって思ってます。後、トマトはサラダに入れてもらって……トウモロコシは、やっぱり茹でて食べたいですね」
「ほお、煮びたしか……実に美味そうな響きだ」
「実際にとっても美味しいと思います。新鮮そのものですからね」
「腹が減っているのもあって、すごく食べてみたくなるな」
「ふふ、よかったら明日にでもお裾分けしましょうか?」
「何? いいのか?」
「はい。その代わり、秀吾くんのカレーを食べさせてもらいたいです」
「そんなんでいいのか? もちろんいいぞ、是非お裾分けしてくれ」
「分かりました。じゃあ、また明日にでも届けに行きますね」
「悪いな、いつも来てもらっちゃって」
「いいんですよ。それに、貸してもらった作業着も洗って返したいと思ってましたから。これで明日も会う口実を作ることができましたし」
「……絵玖も、少しずつ策士になってきてるな」
「その影響を与えてくれたのは、秀吾くんですけどね」
「そうか。絵玖は俺に毒されてきてるのか」
「そうみたいです」
「なら……どんどん俺色に染めてってやる」
「ふふ、是非お願いします♪」
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