夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(10)
「おお、これも美味い。疲れた体に適度な甘みが染み渡るな~」
「ホントですね。ちょっと酸っぱいのかなって思ったんですけど、すごくちょうどいい甘さです」
「よく俺の家の母ちゃんが作るんだよ。疲れた時にこれを食べると、元気になるからってさ」
「実際なるよな、これは。スポーツ選手とかに食べさせたらすげぇ効果が表れそうだ」
「そうですね、後半の練習も全力を出せそうです」
「実際俺たちが頑張ってるのは、農作業だけどな」
「でも、おかげでまた力が湧いてきた。これなら後半のナスとの戦いも乗り切れそうだ」
「そうだな。打ち崩した暁にはマーボーナスとして食卓に上げてやる」
「おお、いいな。じゃあ俺は……天ぷらにしてやるか。見てろよ、ナス、俺たちの底力を」
「何か、すごく熱い展開みたいになってきてますね。これからバトルが始まるみたい」
「みたいじゃなくて始まるんだぞ、絵玖。俺たちとナスの仁義なき戦いが」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、そうだ。必ず、三人で勝利の二文字を籠に入れて持ち帰って来るんだ。いいな?」
「は、はい。分かりました」
「よし、それじゃあ行くか」
「もう休憩はいいのか?」
「モチベーションが高まった今こそ、真の俺の収穫能力が発揮されるってもんよ」
「なら、始めない手はないな。絵玖ちゃんも大丈夫かい?」
「はい。トマトのおかげで力が戻りましたから」
「じゃあ――後半戦スタートだ!」
無駄に熱い展開のままで、俺たちはナスの収穫に向かった。野菜の種類は変わったが、基本的な収穫方法はトマトと一緒だ。
ナスの蔕の上をハサミで切り、籠に入れていく、これの繰り返しだ。
先程の作業でコツを掴んだ絵玖の収穫スピードはすっかり上がり、三人ともほぼ同じくらいのペースでナスの収穫を進めていった。むしろ、若干俺を抜くような勢いだ。
やはり女性は手先が器用なようにできているのだろうか? マジで若い頃からこれをずっとやっていたら、相当な逸材になっていた可能性がありそうだ。
俺も負けてはいられないな、ちょっとペースを上げて、ガキの頃から培ってきたアビリティを爆発させるとしよう。
目標は、三人よりも早く自分の持ち場のナスの収穫を終えること。
――よし、やるぜ。
…………それがいけなかったんだろうか?