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夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(9)

 ――そして、作業開始から1時間程で、一列分の収穫が終了した。


「ふー、一先ずトマトの方はこれでOKだな」

「めげずにやり切ることができました」


「ホントすげぇよ、初めてなのに弱音を吐かずにここまでやれるなんて大したもんだぜ。ますます稼業を継いでほしくなるな」

「さっきは何も言わなかったが、聞き様によっては一種のプロポーズだよな、それ」


「ぷ、プロポーズ?」

「俺の稼業を継いでくれ……確かに聞こえなくもないな」


「さあ絵玖。その質問の答えは?」

「――あたしには、継いでいけるほどの実力はないので……ごめんなさい」


「残念、見事に振られてしまったぞ~!」

「ちくしょう……ネタだと分かっていても、女の子に振られるのはなかなかに応えるぜ」


「ご、ごめんなさい、亮くん」

「はは、本気にしないでくれ。あくまで冗談だから、本気でお願いするんだったらこんなに軽い感じで持ちかけないよ」


「ほっ……よかった……」


 さすが素直人間の絵玖。言わなければ本気にしていたかもしれないな……。


「ん? ……ちょっと母ちゃんに呼ばれたみたいだから行ってくる。二人はちょっと休憩しててくれ」

「ああ、分かった。……よっこらしょっと……おー、イテテ」


 久々に農作業したせいか、思ってるよりも腰に負担が来てるようだ。後方に反り返ると、背中がバキバキと折れたかのような音を鳴らした。


「んん~っ」

「す、すごい音ですね、秀吾くん」


「今までの一連の作業で凝ったんだろうな。こりゃあ明日は筋肉痛の予感がする。絵玖は? そんなに痛そうにしてないけど」

「いえ、あたしも結構痛いですよ。秀吾くんと同じで反り返ると痛くて……ちょっと反り返るのが怖いんです……」


「…………ふ」

「え?」


「痛いだろうが、鳴らしておいたほうが楽になるからさ。――というわけで、捕獲!」


 パシッ。


「わわっ!」

「はい、背中の反り返し、開始」


「ちょ、ちょちょちょちょ、しゅ、秀吾くん、ま、待って……い、イタタタタ!」

「痛いと思ってるから痛いんだ! 頑張るんだ、あきらめるな、気持ちの問題だ!」


「そ、そんな松岡さんみたいなことを言われても――、い、イタイ、イタイです!」

「頑張れ、もう少しだ! あきらめるな!」


「あああ~! ん、んぐ~!」


 そして、50度程傾けたところで背骨が良い音を鳴らした。


「よし、OK。これで少し楽になるだろう」

「く~……イタタ……」


「まだ痛いか? さっきより楽になっただろう?」

「突然の秀吾くんの豹変ぶりに、体も心もびっくりしちゃって感覚が遅れてやってきてるみたいです……」


「なんとまあ、珍しいこともあるもんだ」

「秀吾くんのせいじゃないですか~! 急に捕獲されて背筋反らされて……あたし、背骨折られちゃうのかと思いましたよ~」


「人間の体は強く作られてるんだ。あんな程度で折れるのだとしたら、絵玖は栄養不足だ。煮干しを食べずに育ってきた報いだぞ」

「そういう問題じゃないです。もうちょっと……ゆっくりと工程を踏んで欲しかったですよ。何で今だけあんなに急く必要があったんですか?」


「いや、テンションのままに体を動かしたらそうなった」

「秀吾くんはテンションが上がると松岡さんになるんですね」


「熱くなると自分でも分からないようなパワーが出せるからな。闘魂注入しなかったら、絵玖はまだ痛がっていたかもしれないぞ」

「そ、そんなことが有り得るんですか?」


「有り得たらいいのにと思ってる……」

「あくまで願望なんですね……」


「でも、リアルに若干楽になった気がしないか? 骨は軋んだままにしないほうがいいはずだから」

「はい、ちょっと楽になった気はします。でも……これって、あたしが寝そべって秀吾くんに背中を押してもらったほうが早かったんじゃないですか?」


「もちろんそっちのほうが楽だが、それだとちょっと……俺のメンタルがな」

「? メンタル?」


「また少々変態的な言葉を発することになるが……聞くか? それとも止めるか?」

「…………怖いものみたさで聞いてみたい気もしますが、今は止めておきます。二人だけの時ならいいですけど……野菜さんたちに変な影響を与えたくはないので」


「うん、では伏せておこう」


 俺が言おうとしたことは、絵玖の背中を見たら、絵玖の体のラインに気を取られて背中を押すどころの精神状態でなくなる可能性があると言おうとしていた。


男はそういうものに非常に弱く作られている生き物だ。ちょっとの気の緩みが、今までの関係にキズを付けかねないからな。


冷静な俺は冷静にそう判断し、ややテンション高めに先程のように絵玖の体を気遣ったのだ。……やるだろ? 俺。


「おーい、二人とも。母ちゃんが栄養補給用にってこんなものくれたぞ」


 亮がタッパーらしきものを持ってこっちに戻ってきた。


「ほら、これ」

「おお、これは。トマトのレモン漬けではないか!」


「わぁ~、美味しそう」

「昨日から漬け込んでおいたらしい。せっかくだから二人に食べさせてやれってさ。遠慮せずに食ってくれ」


「何とも嬉しい差し入れだ。じゃあ遠慮なく食べるぜ、いただきます!」


「絵玖ちゃんもどうぞ。そのまま手で取っていいから」

「あ、はい。いただきます」


 絵玖も手で取って口に運ぶ。


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