夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(8)
「…………」
「…………」
「…………」
作業が始まってからは、三人それぞれ黙々と作業をこなしていく。単純作業なだけに特に失敗することもなく、時間が経つにつれ進むペースはどんどん上がっていく。
最初こそ俺と亮に遅れをとっていた絵玖だったが、回数を重ねる毎に上手くなり、コツも掴んだようで収穫スピードは少しずつ上がっていった。
その姿はとても様になっており、アイドルであることを忘れてしまいそうになるほどだった。それを冗談で伝えてみると――。
「嬉しいような、悲しいような……」
さっきと同じ、微妙な顔を浮かべていた。
気温は午後になり上昇し、30度を優に超えるような温度になっている。全員の額には汗が光り、タオルも徐々に汗を吸って重たくなっていく。
だがそれでも、不思議と心地良く感じるのは、この作業を楽しめているからなんだろう。
絵玖の充実感ある表情が何よりの証拠だ。
「絵玖ちゃんやるな。農家育ちの俺よりも上手いんじゃないか?」
「それはないですよ。見様見真似ですし、やりやすい作業だからです」
「それでも、秀吾よりも上達のスピードが格段に早いよ。な? 秀吾。秀吾これに慣れるまでそれなりに時間かかったもんな」
「ああ、茎の固さに負けて全然最初は切れなかった。ガキで力もなかったっていうのもあったかもしれないが、それはそれは下手だったよ。……な、言っただろ? 俺よりも上手くなってるかもしれないって」
「絵玖ちゃん、俺の代わりにこの稼業継いでみないか? やっていけると思うんだけど」
「そ、それは遠慮しておきます。さすがにやっていける自信が……」
「アイドル経験ありの農業娘か……ネームを売るには十分すぎる素材だな。再々ブレイクも夢ではないかもしれんぞ」
「夢ですよそれ。それに、もう芸能界に戻る気はありませんから。過去を振り返らず前を見て進んでいきたいと思ってます」
「おお、名言が飛び出したな」
「心に響く良い言葉だ」
「えへへ、ありがとうございます」
「じゃあ俺も一つ、迷言を放っておこうか」
「あれ? 名言の“名”の字が違うような気が……」
「では一つ――人類皆変態!」
「おお、なかなか深いな」
「何処かで聞いたことがあるような名言ですね」
「俺がいつも心に止めている言葉だ。なかなか活かすだろう」
「でも、今の言ったとおりだとこの世界にいる人みんなが変態ってことになりますよね。それって、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だ。前にも言ったと思うが、人間誰しも一つは変態的な部分というものを持ってるんだ。ただ、表面に出さないだけでな。だから、何も心配いらない。自分が変態だと思っても、それは決しておかしいことではない。普通なことだからさ……」
「……何でこんな言葉が、すごく良い感じに聞こえてしまうんだろう……」
「これが秀吾のすごいところだよな。どうでもいいことをすごく良く聞かせることができる……才能だよ、これは」
「うむ、この才能を腐らせないように気を付けていくとしよう。……以上、迷言コーナーでした」
「こ、コーナーだったんですね……」
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