夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(3)
さて、このだらしない格好から私服に着替えるとしよう。俺は布団から起き上がり、服を閉まっているクローゼットを確認し――
「ん?」
携帯がブルブルと震えている。メールであれば3回でバイブレーションが切れるのだが、何度も続いてるところを見ると電話のようだ。一体誰からだろうか? 携帯を開き、誰からの着信か確認する。画面には、三山亮太と記載されていた。
何か頼みごとでもあるんだろうか?
「――はい、もしもし」
「おお、秀吾。おはよう、起きてるか?」
「起きてなかったら電話に出ることなく爆睡してるよ。今目を覚ましたところよ」
「おお、そうか。てっきり寝てると思ったから、電話に出た時に驚いたぜ」
「俺も自分で今日は早い起床だと思ったよ。普段は正午まで寝てるからな」
「はは、相変わらず睡眠に貪欲なんだな」
「睡眠は幸福の象徴だと思ってる。とれる時にとっておいたほうがいいから」
「違いない」
「で? 何かしたのか? 電話なんかしてきて」
「ああ、そうだ。ちょっとお前にお願いしたいことがあってだな……聞いてもらえないかと思って電話したんだ」
「お願い? ……合コンとかの誘いじゃないだろうな? だとしたら俺は戦力にならないぞ? 初対面した女の子としゃべれるスキルはない」
「いや、そっちは残念ながらキャストが決まってないからお願いしたくてもできないんだ。だから今日のお願いはそれじゃない」
「そっちじゃないとすると……人手が必要ってことか?」
「ああ、そういうこと。今が野菜の収穫のピークだってことはお前も知ってるよな? でも、人手が足りなくて、収穫が捗らないんだよ。俺と両親、三人だけでやってるような状況だから、お前に力を貸してもらえないかなと思ってさ。報酬はいつも通りですまないが、家の新鮮野菜をたっぷり分けてやるよ。どうだ? 頼まれてやってくれないか?」
「ふむ、俺は三山家の新鮮野菜のファンだからな。それがもらえるとなれば、手伝いを断る理由はない。喜んでやらせてもらうよ」
「おお、それは助かる。毎年のように手伝ってもらえて嬉しいぜ」
「いいってことよ。いつもお前の家の野菜に生かされてるからな、俺は」
「ああ、サンキュー。じゃあ、昼くらいを目途に来てくれるか? 急いで来なくても大丈夫だ、突然依頼してしまったからな、お前の予定に合わせる」
「OK、間に合うように行く。……あ、そうだ、今絵玖が家に遊びに来てるんだが、絵玖も手伝いに行かせてもいいか? この機会に、畑仕事ってのを体験させてやろうかと思ってな」
「絵玖ちゃんか? 人手は多い方が助かるから、俺は構わないけど……大丈夫か? なかなかに体を使う仕事だぜ? 疲れちゃうんじゃないか?」
「多分、というか絶対疲れはするだろうな。でも、きっとあいつ、やってみたいって言うと思うんだ。絵玖、田舎での生活っていうのに、今すごい興味を示してるようでな。よかったら体験させてあげたいって思うんだよ。連れていってもいいか?」
「本人がやりたいんなら、俺は一向に構わないぜ。それに、畑仕事に興味を持ってくれるのは俺もそれなりに嬉しいからな」
「サンキュー、じゃあ絵玖と一緒にお邪魔させてもらうよ」
「おう、待ってるからな。じゃあ、またな」
「ああ」
――ピッ。
着替えながら何処に絵玖を連れてこうか考える予定だったが、これで考える手間が省けたな。ただ、あの格好で絵玖に農作業をさせるわけにはいかない。
……ちょっと大きいかもしれないが、俺のスポーツ用の服を貸してやるか。確か、クローゼットの奥のほうに閉まっていたはず……うん、ちゃんとあるな。
とりあえず、朝食をいただきながら絵玖に話をするとしよう。
……………………。