夏休みスタート! まずは農家のお手伝い(1)
8月2日
……………………。
…………。
……。
「うーん……」
朝9時。普段ならとっくに起きて一日をスタートしなければいけない時間なんだが、今はみんな大好き夏休み。
それぞれが自由な時間を過ごすことが許される日だ。故に俺は、こうして自分の好きな時間、即ち惰眠を貪っている。
ここ二日間の俺の生活リズムはひどいの一言だ。夜更かしなんて当たり前、日中は12時近くまで寝て、活動を始めるのは午後から。
佑香が一緒に住んでいたら絶対に蹴り飛ばされているだろう。しかし、この空間には俺一人、そして今は夏休み。誰からもこの怠惰な生活に関して注意されることはない。
何をしても俺の自由なんだ。よって俺は、自分の気が済むまで睡眠をとる。何より、こんな風に時間に囚われない生活が結構好きだったりする。
こういうところに幸せを感じることができる俺は、きっと恵まれているよな。
「――というわけで、お休みなさい」
俺は目をつぶり、もう一度眠りの中に落ちていく。
……………………。
――ピーンポーン。
ん? インターホンが鳴った音がしたな。一体誰だろう? また何かの勧誘か? だとしたら、わざわざ玄関に行って対応する必要もない。留守ということにして去るのを待つとしよう。
俺は再び目をつむる。
…………。
――ガチャリ。
「ん?」
今ガチャって音がしたような……ひょっとして、誰かが家に進入してきたか?
あれ、俺、昨日は鍵はしっかりかけたよな。
今日はまだこの部屋から出てないから鍵を開けてもいないし……とすると、まさか……。
「泥棒か?」
鍵のかかっている部屋に忍び込んでくるとすれば、それ以外には考えられない。しかもこんな田舎だ、よりその可能性は高まる。
「ど、どうする?」
そうだと予想したところで俺はどうすればいい? 入られた時の対策なんてしたことないし……もしナイフとか持っていたとしたら、俺に勝ち目はないぞ。
落ち着け、こういう時こそ冷静にならなきゃダメだ。とりあえず……何か武器になりそうなものを……。
……とりあえず、いつでも電話をして警察を呼べるように準備を。一先ずは……布団の中で息を殺していよう。うん、それがいい。
「そうと決まれば……」
俺は布団を頭まで被り、オーラを消してじっと待機する。
…………タン、タン、タン。
どうやら、階段を上がってきてるようだ。一階に金目の物がないことを悟ったのか?
かと言って二階にも特に大した金目の物はないんだが……それを素直に伝えたら、お帰り願えるのだろうか?
いや、それはないか。『じゃあありったけの現金を出せ』とか言われるに違いない。『あ、そうですか。失礼いたしました~』とか言って帰るはずもない。
く、頼むから早く家を出ていってくれ~。
…………。
……タン、タン。
おいおい、ちょっと待って。泥棒さんの足音が止まった。というか、この部屋の前で足音が止まらなかったか? これは、本格的にヤバいことに……。
「……………………」
ガチャリ。やばい、入ってきたぞ……。
「…………♪」
……タン、タン、タン。
足音は確実に近づき、俺の寝るベッドの横まで接近している。……ちょっと待て、狙いは俺なのか? 俺の命をこいつは狙っているのか?
一体俺が何をしたんだ、何か誰かに恨まれるようなことを…………まさか、絵玖と仲良くしてるのがファンに見られていた。
……有り得る。熱狂的ファンというのは、得てしてとんでもない事件を引き起こすことがある。じゃあ、俺の行為はその琴線に触れてしまったのか。
……というか、そんなことを考えてる場合じゃない。何とかしなければ――。
「そーっと……」
ヤバい、ばれる――。