フィッシングのちファイアフライ(14)
笑ったり、プンプンしたり、ホントに絵玖の表情は見ていて飽きないな。
本当に絵玖が来てから、俺の日々は前以上に楽しくなったと思う。当たり前のように送っていた日々から一転、同じことをしていても絵玖がいるとそれは当たり前ではなく、初めての体験になっている。つまり、ここ最近の日々はすごく新鮮になっていた。
一人新しい仲間が増えるだけでこうも変わるんだ、やはり人間の持つ影響力はすごいことが伺える。
最初、友達になろうかならないかとかで渋ってた自分がアホらしく感じる。俺はこんな楽しい女の子を野放しにしておこうとしていたとか……バカにも程がある。今ははっきり言える、絵玖と友達になったことは大正解だったと。
「よかったよ、ホントに」
「? 何ですか?」
「絵玖が転校してきてよかったなって思ったんだよ」
「どうしたんですか? 急にそんなこと言って」
「特にどうもしてないよ。ただ思ったことを口に出しただけ」
「そうなんですか?」
「うん、そうだ」
「じゃああたしも思ったこと口に出しちゃいます」
「うむ、言ってみるがいい」
「あたし、今日だけでたくさんの初体験をすることができて、とっても嬉しかったし、とっても楽しかったです。それもこれも、秀吾くんがこうして遊びに誘ってくれたから体験できました……ありがとうございます」
「そう思ってもらえたなら、何よりだ。俺も、一人でやるよりも全然楽しめたぞ。絵玖のおかげだ」
「ふふ、そう言ってもらえたら、嬉しいです。……また、来ましょうね」
「おう、もちろん」
……………………。
…………。
……。
――帰り道も、絵玖が手をつないできたから手をつないで帰った。この光景をクラスメイトに目撃されたらどうしようか……とも思ったが、別に考える必要もないだろう。後ろめたいことがあるわけでもないし、それを知られて命を狙われるなんてこともないだろうし。
手をつなぐくらい、誰だってするしな。というわけで、今のこの状況を喜んで受け入れることにした。
「…………♪」
「ご機嫌だな、絵玖さんよ」
「はい。今日一日、とっても楽しかったですから。だから今はとっても機嫌がいいです」
「そうか」
「変ですか? 今のあたし」
「いや、そんなことはない。むしろ、そうしていたほうがいい。俺も気分が良くなるから」
「ふふ、じゃあこうしています」
「……何か、こうして遊ぶ度に、絵玖の本来の姿を見ていけてる気がするな」
「本来の姿ですか?」
「ああ。以前言っただろ? 物静かな、アイドルじゃなさそうな女の子っぽいって」
「言ってましたね」
「それが今はどうだ。よく笑うし、結構明るいし、そしてちょっとドジっ子の女の子だ。芸能界で人気になるのも分かる気がする」
「そ、そうですか?」
「うん。しかも絵玖の場合、本当のドジっ子だからな。演じてるとかそういうのじゃなくて。そういう姿を見ると、俺と同じ人間なんだなって思えるというものだ」
「今まで、人間だと思ってなかったんですか?」
「本当に存在するのか、って感じがするんだな。ほら、すごい有名人と実際に道端で会ったりすると、会えて嬉しいって思うよりもテレビの中だけに住んでたわけじゃないんだって思うことのほうが強くないか?」
「うーん、分かるような、分からないような……」
「まあ、絵玖は芸能界の人間だったから、分からないかもしれないな。そう言われる側だっただろうし。ただ、一般ピーポーの感覚としてはこんな感じだってことを覚えておいてくれ」
「なるほど~」
「まあ、絵玖にはそんな感じを受けなかったけどな、不思議と」
「多分、テレビで見たことがなかったからだと思いますよ。不思議でも何でもないかと……」
「……先入観を持つことなく接することができているから、これはこれで正解だろう。そうに違いない。俺の中では、絵玖は有名人ってジャンルじゃなく、友達のジャンルに入ってるぜ」
「それは、ありがたいことです」
「今後とも、よろしくどうぞ」
「はい、もちろんです」
…………。