フィッシングのちファイアフライ(12) 【挿絵付き】
――そして、急な道を歩き終え、目的のポイントに到着する。
「よし、ここだ。ここにたくさんホタルが出るんだよ」
「楽しみですね。……でも、まだそんなに見えないですね」
「いや、確実にここにはいる。俺たちが来たから、光ってないだけで」
「その辺に腰を下ろして、静かにしてれば、すぐに光り出すさ。……あの石のところにでも腰下ろそうぜ」
「はい、そうですね。……よいしょ」
俺の右横の石に絵玖は腰を下ろす。
「しばらく、じっとしてよう。すぐに光り出すから」
「分かりました。じっとします」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
――そして、2分くらいした後。
「――おっ、ほら絵玖。見えるか? あそこ」
「え? ――あ、ホントだ」
俺の指差した先に、光を放つホタルの姿が。
「すごい、ホントに光ってる」
一匹光り出すと、その後は連鎖的に次々のホタルが光り出す。
二匹、三匹……五匹、十匹――。
「すごい、すごいです」
気付けばたくさんのホタルが光りながら宙を舞っていた。全然いなかったらどうしようと少し不安はあったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。今日もここのホタルは元気に光っているようだ。
「な? すごいだろ?」
「はい、こんなに綺麗に光るんですね。明かりはないけど、秀吾くんの顔がはっきり見えます」
「はは、俺も絵玖の顔がしっかり見えてるぜ」
「ここは、いつもこんなにホタルが見れるんですね」
「そうだな、もちろん夏のこの時期限定だけど。やっぱり都会だとホタルは見ることできないもんか?」
「はい。あたし、ホタルを生で見たのは今日が初めてですよ」
「お、そうなのか?」
「はい。やっぱりホタルが住み良い環境というのは、向こうには存在しないので」
「うーん、やっぱりか。この綺麗な光景を見れない人たちは、すごくもったいないことをしてると思うな」
「そうですね。あたしは今日、そのもったいないことをした人からの脱出に成功したことになりますね」
「そうだな、よく見ておくといい。見てるだけなのに、すごく心が落ち着いてくるぞ」
「はい、よく見ます。…………」
「……………………」
――それから少し、俺たちは無言でホタルの光を夢中で観賞していた。